ちょス飯の読書日記

 『陽のかなしみ』  ★★★★☆

陽のかなしみ (朝日文庫)

陽のかなしみ (朝日文庫)

 石牟礼のエッセイ集。雑誌、新聞などの他ジュリストに掲載されたものも含まれる。既に書いてきたことが繰り返し書かれている箇所もあるが、表題作は書き下ろしである。

 いろいろな人物評のなかには、北林谷栄さんについて、その役者ぶりに驚嘆したとある。そして、盲目の琵琶弾き女として、水俣病のドラマに出てもらったと。元来役者は、ある役を演じることで、社会を風刺したり変革を目指すものだった。

 また石牟礼は「神」についてよく語っている。沖縄の島々の神女に深く感心して紹介している。

 水俣病患者がチッソと結託している国家権力によって、不当に逮捕されてしまう事件では、石牟礼は全くひるむことなく、裁判長にまで意見を出している。本当にその強さに驚かされる。何故、マスコミは当時患者家族の側に立ち、もっともっと国家とチッソを批判しなかったのだろうか。

 また、網元の娘で、いつも周りを賑やかしていた水俣病患者の杉本栄子さんが、重症化してしまった姿を石牟礼は語っているが、衝撃を受けた。栄子さんが食堂を経営していたとは、驚いた。彼女は石牟礼の姉のような存在であり、漁や海について何でも教えてくれる師匠でもあった。立ち上がることにも不自由になってしまった、変わり果てた姿になって、苦しみ抜いて、死んでいった水俣病患者たちがいたのだ。そして、今も苦しみながら生きている人がいる。彼女の息子の一人が、今水俣の海で漁師を続けているというが、(NHKの小さな旅で登場された)晩年栄子さんが始めた踊りを子どもたちに伝えているという。それは、嬉しいニュースではあるが・・・。

 高群逸枝、彼女の夫についての記述もあるが、「招婿婚」とは何か、高群とはどんな人なのか。石牟礼の著書を読破したら、探求してみたい。

 このエッセイは非常に論理的、学術的で読みにくかったので、マイナス1。