ちょス飯読書日記

 『西南役伝説』  ★★★★★

西南役伝説 (朝日選書)

西南役伝説 (朝日選書)

 以前にも、日記上で紹介したが、五郎という名前の犬は存在せず、あの章はフィクションだった。しかし、勧進さんのなかに女乞食がいて、いつも犬ころを懐に入れてされいて(当て所なくふらふら歩く)いたモデルは実在していた。

 淫売、勧進(乞食)、気狂いの人に対する作者のまなざしは常にあたたかい。

 これは、石牟礼氏が100歳以上のおじいさん、おばあさんを訪ねて、自分たちのおじいさんたちから聞いた西郷隆盛の戦いはどうだったかを、聞き書きしたもの。

 農民にとっては、誰と誰が戦おうが関係ない。田畑を荒らされたり徴用されるのは苦しいが、自分の命が一番大切だと知っている。

 官と民の戦いも意味がわからない。天皇陛下とは何かも知らない。

 明治以後、全国民が戦争に駆り出されて、万世一系天皇の赤子となるのは、ずいぶん後のことなのだ、とわかった。

 敗軍の兵士の死体が累々と重なり、人魂が出て困るけん、坊さんにお経を読んでもらったという件、幽霊もいっぱい出たのだそうだ。それは、本当だろう。