ちょス飯の読書日記
『夜の谷を行く』 ★★★☆☆
- 作者: 桐野夏生
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2017/03/31
- メディア: 単行本
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想像するだけでも恐ろしい、凄惨なリンチを繰り返し12人もの同士を殺害させた永田洋子が、脳腫瘍のために死刑を免れて2011年病死する。その記事を、主人公63歳の啓子は格安のスポーツジムの新聞で知る。
信念を持って、革命の戦士となろうとした啓子は、40年経ってもかつて米軍基地に忍び込み、物置小屋にダイナマイトを仕掛けて、ボヤをだしたことを間違ったことだとは思っていない。
しかし、自分の成したことで両親は早逝、親戚からは義絶される。
ただひとり妹とその娘だけが、自分の孤独を癒やしてくれる存在だったが、姪が結婚するという段になり、・・・。
政治婚で結婚した夫は、40年後の今(物語は2011年)ではホームレスとなり片足が不自由になっていた。ふたりが、あるルポライターのとりもちで再会したのは、3.11。東日本大震災が起きた日だった。
最後は、あっと驚く鮮やかな幕切れだったが、桐野にしては、毒がなくおとなしすぎる展開だった。読みやすくて、一気に読んでしまったが、マイナス2。
大事件の証言者でもある啓子が、自分自身の真実は話さずひっそりと生きている。革命戦士達は、反省はしない。家族は、彼女のことを恐れ、信じられなくなる。
しかし、どうしてあのような残虐なことを繰り返すことが出来たのか。かつての革命戦士は、あまりにも幼稚な理由で人命を弄んでしまった、厳冬の雪山でのてん末を恥て、ひっそりと世の片隅で息を潜めて生きているのだ。
永田は子煩悩でもあり、自分たちがこどもをたくさん産み、革命戦士として育てたいという計画もあったと書かれていたが、・・・。こどもの人格、幸せを無視して親の意向を押し付けるということが、革命には必要なのだろうか。恐ろしい思想だ。世界の虐げられた人びとの救済のために、彼らは立ったはずだ。
暴力による革命は、不可避だったのだろうか。ただ仲間を殺しただけで、彼らの革命(ごっこ)は終わった。連合赤軍の事件については、もっと詳しく知りたくなった。