ちょス飯の読書日記

 『狩りの時代』  ★★★☆☆

狩りの時代

狩りの時代

 津島 佑子の遺作。
 死後、遺族が収集しパソコンに残されていた原稿などをもとに、出版された。
 体を回復させてから、推敲して自分のベストな形で出版したかったことだろう。初めて筆者の作品を読んだ。
 日独伊同盟の時代、ヒットラー・ユーゲントの少年使節が日本にやってきたということを、この本で初めて知った。
 
 黄色人種である日本人は、白人、金髪、青い瞳に憧れや畏敬の念を感じるという箇所や、主人公のおじ、おば(当時こどもだった)が彼らを見物するために、駅に向かったこと、そこで、社会の役に立たない人間を「不適格者」と呼ぶのだと後で、おとなのヒソヒソ話を聞いて知るところ、その言葉を絵美子が兄・耕一郎の尊厳を侵すと思い、誰が何故使ったのかを知ろうとする顛末が、切なかった。

 主人公の絵美子には、15歳のとき肺炎であっけなく亡くなってしまった3歳違いの兄・耕一郎がいたのだが、彼は先天的な病気のせいで体が弱く、言葉を話せなかった。しかし、充分ふたりは仲良くコミュニケーションができた。夫を早くに亡くした母も彼を育てることに苦労をしたものの、亡くなるまで愛し続けていた。彼の死後も、その愛情は変わらない。

 核物理学者でアメリカ在住の絵美子の伯父に夢の中での演説に、作家の言いたかったことが集約されている。この言葉に、深く共鳴した。

 人の役に立つか、どうかは問題ではない。(略)耕一郎は愛情深い子どもです。家族だけではなく、まわりのひとたちに無類の笑みを見せてくれるのです。(中略)ひととして、それで充分なのではあるまいか。わたしはそう思うに至りました。267頁より
 
 題名の「狩り」は、人を役立つか否かで分けて殲滅するという意味なのだろうか。あるいは、肌の色や思想、宗教でいさかいをより激しくさせている今日の時代のことを指しているのだろうか。

 福島原発事故についての、言及もこれからというところで物語は尻切れトンボ状態だった気がする。故にマイナス2★。
 
 しかし、死を目前にして最期まで書き続けられ作家魂に脱帽する。合掌