ちょス飯の映画評

 『ペーパームーン』   ★★★★☆

ペーパー・ムーン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

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 これは、映画の中で9歳の母親を亡くしたばかりの女の子が主人公。この子は、アカデミー主演女優賞をわずか10歳で獲得した。
 墓地に母親を葬る場面から始まるのだが、何故か女の子はたくましい。涙はない。彼女を伯母のところへ届けるよう、頼まれた男は夫を亡くした妻に聖書を売りつける詐欺師。
 しかし、この娘は彼よりずっと知恵者なのだった。
 その場面も、おかしくて面白かった。ダンサーの娼婦の言い分も、切なくて愉快なのだった。
 最後は、彼女が保護されるのかと思っていたら、・・・。

 父親かもしれないし、他人かもしれない男とシングルマザーから生まれた女の子が旅を続けるうちに、親子のような関係になっていく。

 紙の月は、偽物の月でも君の愛があれば本物に見える、ということなのだろう。遊園地で紙でできた大きな三日月に座って、しかめっ面で写っている写真を男に渡すところは、ほろりとした。

 しかし、こどもがタバコを吸うシーンはいただけなかった。時代が許したのだろうか。故にマイナス1。これは、男をとっかえひっかえしてきた自堕落な母親との暮らしを彷彿とさせるアイテムなのだろう。

 後で、詐欺師役の男モーゼ、ライアン・オニールと主人公アディ役のテイタム・オニールが同じ姓だからもしやと調べてみたら、実の親子だということがわかった。驚き、納得した。

 『めぐりあう時間たち』   ★☆☆☆☆

めぐりあう時間たち DTSスペシャルエディション (初回限定2枚組) [DVD]

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 これは、悲しかった。バージニア・ウルフというイギリスの女流作家が川に一歩一歩入って自殺しようとする場面から始まり、誰かが助けに来るのかと思ったら、結局彼女の死で終わる。
 そのたった一日を目まぐるしく、イギリスの片田舎のうつ病の女性バージニアと彼女の著作を愛読しているアメリカの主婦ローラ、そして彼女の息子でエイズを発症して死にかけている詩人リチャードを愛していた女性クラリッサが、彼を世話して、ニューヨークで彼の受賞パーティーを開こうとしている情景を描いている。何十年も違う時間、異なる場所でのできごとだ。

 一番腑に落ちないのは、何故幸福に見えるローラが今の生活を「死んでいるのと同じ」と感じているのかだ。確かに、自分が望んだ人生ではないかもしれないが、生まれてきたこどもには、母の悩みは理解できない。
 しかし、彼女は母恋しさに狂って、自殺した息子を見ても、彼を捨てて家を出たことに後悔しないという。そして、責め苦を感じながら生きて行くという。「自分の人生を生きた」からだと。
 
 クラリッサから息子が自殺したとの連絡を受けて、ここで、いきなりローラが家出した時から40年ほど経た姿で、トロントから現在のマンハッタンへ現れる。

 自分の人生を生きたいように生きる、これはなかなかできないことだ。折り合いをつけて、周りのものとの関係も大切にして生きていくことは、喜びでもあるが、苦しみも多い。
 皮肉なことに、ローラの隣人には、こどもが授からず、クラリッサは、リチャードと別れた後、精子バンクから精子を買って、出産。娘を育てていた。 夫婦が深く愛し合っていてこどもが欲しくても、授からない主婦の嘆きがある一方、時代を経て、今日では望まない結婚をしなくとも、子どもを持つことが自由にできるアメリカに驚いた。
 また、彼女がパーティの料理の準備のために卵の白身と黄身を分けるとき、素手で黄身を撫で回して白身部分をボウルに落としているのにも驚いた。確かに、黄身を確実に分離できる方法だ。