ちょス飯の読書日記

 『あなたが消えた夜に』   ★★★★☆

あなたが消えた夜に

あなたが消えた夜に

 これは毎日新聞夕刊に連載された新聞小説だという。作者中村氏は、「悪」についてずっと書いてきているが、ここに来てコメディの部分もある刑事ものを書いた。

 灰色のコートの男による連続殺人事件が、模倣犯や犯人を名乗る人々の出現によって、混沌となっていく。まるで、2時間サスペンスの刑事ドラマのシナリオような展開か、と思われたが・・・。

 これはお茶の間の新聞にはあまり書かないほうが良い、深い深い悪魔達の闇が描かれ、最後には何も応えてくれない「神」を求める男の物語となって終わる。

 展開が面白いので、一気に読んでしまったが、再読してゆっくり咀嚼してみた。
 
 様々な現場に残された謎は、最後に辻褄が合い、すっきりさせてくれるが、登場人物の心の傷がそれぞれに世相を反映しているとはいえ、ワンパターンではないかな。そこでマイナス1★

 作者中村氏はよく人間の根底にある「悪」を描く。しかし、それぞれの人物が賢すぎるという難点がある。たいてい、中村君がしゃべっているではないか。

 いろいろな人々がそれぞれの困難や、どうしようもならないピンチの中で、殺人を犯したり犯罪に手を染めたり、より弱い立場のものをいたぶったりして、快感を感じたりしている・・・・。

 しかし、人物描写が、あかんでしょう。もっといろいろな人を書き分けましょう。それぞれのひとの声が、一人語りのようになってしまっている。

 ただこの物語で、洗脳の恐ろしさと、愛憎が表裏一体であること、「化け物」がこの世にはいる、ということがよくわかった。化け物は平然と、普通の人(認知症の老人)のように日常生活を生きている。そこが一番恐ろしい。
 
 とくに重要人物である、真田がどういう人かわからなかった。めぐみをもっと、美しい素敵な女性として描いてほしかった。ラストで、ほっとできたのは良かった。これを読むには体力が要ります。

 映画化されるとしたら、警視庁捜査一課の小橋さんは吉高 由里子さんがいいね!所轄刑事の主人公には綾野 剛さんでお願いします。

 『消滅世界』  ★★★☆☆

消滅世界

消滅世界

夫婦間の交尾(性交)が法律で禁止された世界。人々が性交を忌み不潔なものとして、しなくなる世界のお話。夫婦は家族になったのだから、家に恋愛感情を持ち込んではならないという。外で恋人を作ることは、奨励される。
 
 ここが、腑に落ちない。故にマイナス2★。

 恋はしても良いが、性交はしない。人々は性交の仕方も忘れてしまう。
こどもは徹底的に管理された人工授精によってのみ、産み出されるのだ。  実験都市となった千葉市は、男性も人工子宮でこどもを産める様に、受精卵を肉袋に入れて育てる。
 また子育ても、町全体で育てる。飼育員(保育士)以外の大人は、男も女も「お母さん」と呼ばれて、同じ髪型同じ顔つきの子供達を、自由に可愛がることになっているのだ。こどもは、社会全体のものとなり、理想的に育てられる。

 主人公の雨音(あまね)は、体の声に忠実に生きようとするが・・・。彼女の母親は、世にも珍しいごく普通の父親との交尾によって彼女を産んだことに誇りを持っている。そして、「この世界は狂っている」という。しかし、狂っている世界で、順応するには体制の言うなりに、狂って生きねばならない。恐ろしい、お話だった。

 アニメや小説の中の主人公たちに恋することも、生きている人間に恋することも同じで、自分を励ましてくれる。しかし、様々な愛すべきキャラ達は、ファンの性欲を金に換えさせるために、グッズを買わせるなどして結局は金儲けのために生み出されている。という件は、結婚しない人や出来ない人がますます増えて、人工授精で生まれる子供たちがどんどん増えて来ている今日への強烈な風刺だろうか。

雨音が「他人の性器で自慰しているのが、自分のセックスでは」という。
 その言葉には、心底驚かされた。
作者は、男女の愛の交歓が、相手への信頼とコミュニケーション抜きであり、独りよがりの快感に過ぎないと断じている世界を、描きたかったのだろうか。
 恐ろしいことだが、実際の世界でも相手のことを考えず、自分の性欲のみを満たそうと性交をしようとする人に当てはまる言葉かもしれない。

性交による歓びを至上の幸せだとして好んで描いた、坂東 真砂子ならこれをどう読んだだろうか。読ませたかった。