ちょス飯の読書日記
『バラカ』 ★★★★☆
- 作者: 桐野夏生
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2016/02/26
- メディア: Kindle版
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もし、東日本大震災のとき福島第一原子力発電所の1号機から4号機まで全部が、核爆発していたら・・・そして、そのとき生き延びたこどもはどうなるのか。東日本は壊滅し、安全な地に転居できなかった人々はどうなるのか、・・・・2011年3月11日から8年経った日本の姿を、来たるべき未来の予想を桐野夏生が描いた。
しかし、表題のバラカという少女の数奇な運命を辿る8年間だけではなく、様々な登場人物がそれぞれの章で、主人公として活写されている群像劇でもある。
一番の悪は・・・。
川島という、ごく平凡だと思われた男が、どういう契機によるのか、悪魔のようになっていく。その原因のひとつには、ヨシザキというある新興宗教の牧師に、誘惑されたところもあるが、それ以前から彼は女を手玉に取り、妊娠させては捨てることを繰り返して来た。非常に恐ろしい人物。・・・ラストは気に入らなかった。
あまりにも面白くて、スリリングで一気に読んでしまった。もう一度今度はゆっくり味わって読んでみたい。
原発事故後、金のあるものとないものの差は一層増し、被災者や外国人労働者に対する憎悪が増してくる場面は、リアルだ。
放射線量が下がった、安全だ帰還しろと政府が命令するが、・・・原発反対運動をする者には、容赦のない者たちが暗躍する・・・。
ネットやツイッター、スマホが物語の中で、個人情報を拡散させる武器となりうると描かれる。逆に、バラカの居所を知らせることにもなるのだが・・・
ただ、最後の方はちょっとはしょった気がする。井坂幸太郎『ゴールデンスランバー』のように、追いかけっこだけではどうかな。川島とパウロの闘いも見たかった。
次々とバラカを支援しているが狙われたら・・・本当に悲しいし、悔しいことだろう。しかし、必ず味方はいる。読者は皆、被災者を差別する者ではない。
震災後に、福島に住み続けて秘密のツアーをしているサクラが、弟とふたりだけで行きぬこうとしている姿は、かっこよかった。彼女なりの信念を持って、原発を推進する者と対峙しようとしていたのだ。
気になったのは、大阪オリンピック開催のため福島のニュースは一切報道管制が取られ、資材も労働者も被災地から大阪に取られている、と言う記述。まるで、現在の日本の姿だ。
わたくしは、東京オリンピックの成功を願う者の一人だが、やはり5年前の震災で未だに、放射能汚染に苦しむ人々や津波で家族や財産を失った人々のための政策を、第一に考えてほしい。
『バラカ』を育ててくれたおじいちゃんは、『私を離さないで』の文庫本を持ち歩いており、バラかも繰り返し読んでいた。テレビドラマ『私を離さないで』のなかに。友が本棚に手を伸ばす場面があり、そこに『バラカ』が並んでいた。作家同士は、親しいのか。ただの偶然なのか。
再読後の感想(3月30日)
バラカ自身の知恵と勇気、特別な力には感心するが、それより、バラカとおじいちゃんの血のつながらない祖父と孫娘の家族愛が素晴らしかった。それと真逆の、「悪魔」に魅入られた男、川島。悪魔の装置を有り難がって、崇め奉る人々。自分達に逆らう者は、殺していくというのは、物語とはいえ震撼とした。
猿の惑星で、猿達が教会に核弾頭を飾り、神としていたことと、奇妙に一致するのではないか。原発は恐ろしい。今も、放射能による汚染は止められない。汚染水の制御は出来ていないし、たとえ線量が下がったとしても、元の家へ帰宅したしたくない人々の気落ちは分かる。
大きな物語の本筋を形成する、登場人物はそれぞれに不満を抱え、希望を持って生きてきたが、大震災に遭い、次の運命を受け入れていく。ひとりひとりの描写は、活き活きとしていて、男はいらないがこどもは産みたいと、望むキャリア女性の心理などは共感できる女性も多いだろう。
バラカのおじいちゃん、彼も震災に遭ってバラカに巡り合ったことで、新しい人生を生きることになったが、彼はこの物語の最高のヒーローでもある。
エピローグには、涙。