ちょス飯の読書日記

 『追想五断章』 ★★★★☆
  
 

追想五断章

追想五断章

 主人公古本屋アルバイトの菅生芳光は、哀しい。貧乏臭くて。
 ある短編小説五篇を、揃えてほしいと父を亡くした美しい女性に頼まれて、一篇に付き10万円という破格の依頼に喜んで応えようとするが・・・

 失望した人々ばかりが登場してきて、暗い背景だ。

 劇中劇のように、亡き父の遺作が見つかりこの物語の間に挟まれる。これは、なかなか面白い話ばかりだった。世界の辺境の地を旅する男が、それぞれの地で「奇妙な話を聞いた」という書き出して、結末は書かれておらず、別紙に五つの結末の文が書かれており、娘が父親の遺品から見つけたという。
 奇妙な話の最後には、人が必ず死ぬのだが・・・。

 20数年前娘が4才のとき、一家でヨーロッパ旅行をしていた時、その宿泊先のベルギーの高級ホテルで母は自殺している。
 そのため、父は帰国した時、妻殺しの疑いでマスコミに叩かれた過去を持っていた。本当に、父は母を殺したのか、また父とは母は愛し合っていたのか・・・・。
 
父は、何故このような物語を書いたのか、誰に読ませたいというものではなく、せめてマスコミに一矢報いたいと思ったのだろうか。

 一人娘の彼女にとって、すべてを読みたいと思ったのは、真実を知りたかったからだろう。

 しかし、一般の家庭の子供達だって、愛し合って結婚した夫婦のこどもとは限らない。またはじめは熱々で結婚しても、こどもが生まれて育てていくうちに仲違いしたり・・・・

 米沢には、現実を見つめる冷たい眼がある。物語の落ちは、まあまあだが、もっと救いが欲しかった。父の娘への愛は、ひっそりと静かに彼女に伝わったのだろうが。