ちょス飯の読書日記

 『ナオミとカナコ』  ★★★☆☆
 

ナオミとカナコ

ナオミとカナコ

 奥田英朗版『OUT』。カナコのDV夫に、ナオミが「ふたりで天誅を下そう」と、画策する。
 夫の暴力に、抵抗できなくなってしまった傷だらけのナオミを救いたい一心で。

 しかし、完全犯罪を考え実行した「ナオミ」編が、後半の「カナコ」編でそうは問屋が下ろさせない展開になって行く。
 ふたりのおろおろする場面、最後の最後まではらはらさせられた。
 ふたりが、殺人をしたことを見抜いた夫の妹・陽子の追跡を必死にかわそうと空港まで逃げまわるラストの場面は、インディジョーンズの映画の追いかけっこさながら、大迫力だった。

 カナコが夫の殺害後、あれほど無気力でおどおどしていたのに人が変わってしまい何の後悔もしない、明るくるんるんで、絶対に逃げおおせてみせると決意するところは面白かった。が、もう少し葛藤や迷いがあっても良いのではないか。

 描き方が表層に終始している。中国人のやり手女社長は、上海人の心意気をナオミに伝授するが、華僑の人々の暮らしやバイタリティーをもっと描いても面白かったのではないか。
 どんどん、ふたりのシナリオの穴が露見してきて、追い詰められていくところは可笑しかったが、ふたりのキャラの違いがどんどんなくなってしまった。仲違いや相手を疑ったり、裏切るかもしれないと疑心暗鬼になる場面もあっていい。
 暴力夫側の心理、生理も描いたほうがより、深い物語になったのではないか。

 私の絶賛する桐野夏生先生の『OUT』とはまた違った切り口の、女性によるちょっとお茶目なノワール小説。奥田氏には、似合わない主題だ。これでは、やはり物足りない。