しいちゃん、元気

 個人情報保護で、病院は情報を教えてくれない。
 6時間もかけて、やっとしいちゃんが入院している病院へ辿りついたというのに、無情にも今日退院したと言われた。

 駅からここまで780円使ってタクシーで来たので、また1000円以上タクシー代を取られるよりはと、1時間かけてえんやこらやと彼女への贈物を担いで、雨の中を彼女の家まで歩くことにした。

 この道は、亡き父を看病するために朝早く歩いていった道。7年たつと、随分家々も風景も変わってきた。

 ああ、やっと彼女の家へ。

 すると・・・。なんと、ハンプティ・ダンプティのようにぶくぶく太ったしいちゃんが笑顔で迎えてくれた。

 「寝ていなくて良いか」、と尋ねるとずっと入院中寝ていたから、起きていたい。という。 しかし、2ヶ月前にあったときより相当膨張している。とくにお腹が、妊娠9ヶ月の状態だ。

 子宮頸がんの第二ステージだったというが、子宮を全部摘出。3週間後に抗がん剤放射線治療を通院で受けるという。
 尿の出が悪いので、排尿量と導尿量を一日4回測らねばならないそうだが・・・。

 まさか、腹水がたまっているのではないと思うが・・・。

 家族は誰もおらず、一人ぼっちで見舞客を歓迎してくれたが・・・。
 夜行バスの時間まで、ゴキブリの糞と髪の毛だらけのリビングを、必死にころころで掃除しながら、しいちゃんの闘病を讃え、思い出話をしてきた。

 夫が浮気して、商売女の悪いばい菌を私に付けたのだ、としいちゃんはがんの原因を決め付けていたが・・・。ヒトパピローマウイルスは誰でも、感染するが、自然に自己免疫が働き治癒できる人がほとんどだという。感染者が皆、がんを発症するわけではない。
 
 彼女の夫は彼女を無視して家庭内別居状態。この病によって、ご夫君が新婚の時のように、しいちゃんを大切に思ってくれると良いのだが・・・。

 彼女の結婚式の写真や、第一子を妊娠して大きなおなかの彼女と夫君が笑っている写真など、小さいアルバムに入れて贈ると、心から喜んでくれた。結婚当初より、40kg近く肥大した彼女。幸福は、どんどんしぼんでいったのに。
 互いの過ちを許し、ふたたびいたわり合い、愛し合うことはできないものか。病める時も、貧しいときも、愛し合うと誓った二人なのに。