ちょス飯の読書日記
『提婆達多』 ★★★★☆
- 作者: 中勘助
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1985/04/16
- メディア: 文庫
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彼はいかにも、人間らしい。私達の代表だ。
彼の評伝を、行き詰る迫力で書いた。
ブッダの妻を寝取ったというのは、著者の想像だろうか。そうかもしれない。しかし、ブッダは愛欲を超えた存在なので、彼を憎みも責めもしない。
「女は弄ぶためのもの、本当の愛情など感じない」と嘯いていた提婆達多だが、真の愛が欲しかったのだろう。ヤショーダラを弄んだだけだといいながら、実は彼女を愛してしまっていた。
ブッダの教団を分裂させて、勢力を増したのも一時のこと。厳しい戒律を科しても、偽善は見破られ提婆達多は、弟子にだんだんと去られてしまう。
晩年彼は、若々しいアジャータシャトル王に恋慕するが・・・。思いは届かない。
彼は今はの際に、ブッダに別れが言いたいと車に乗せられて出かけるが、遂に再会することが出来ず事切れる・・・哀れであった。これこそ、凡夫の私達の姿。救われて欲しい。
既に多くの人が書いている仏陀の生涯、評伝からオリジナルの提婆達多の心のどろどろした部分、怒りや苦しみ、哀しみを人間ドラマとして見事に構築している。
もっとインドの自然、風物を描写する時に、具体的な樹や花の名前があっても良かった。
後篇の父王を餓死させてしまうアジャータシャトル王子の話は、やるせない。もどかしかった。ブッダは求められなければ、悩みの相談を受けることはない。助けには行かないのだ。
読み飛ばした難しい漢字や言葉を、これからゆっくり辞書で調べよう。