ちょス飯の読書日記

 『提婆達多』  ★★★★☆
 

提婆達多(でーばだった) (岩波文庫 緑 51-5)

提婆達多(でーばだった) (岩波文庫 緑 51-5)

 ブッダを軽蔑して憎み妬み、常に命を狙っていたという、提婆達多。しかし、心のうちは、誰にも明かさないで好人物として振舞い続ける。
 彼はいかにも、人間らしい。私達の代表だ。

 彼の評伝を、行き詰る迫力で書いた。
 ブッダの妻を寝取ったというのは、著者の想像だろうか。そうかもしれない。しかし、ブッダは愛欲を超えた存在なので、彼を憎みも責めもしない。
 「女は弄ぶためのもの、本当の愛情など感じない」と嘯いていた提婆達多だが、真の愛が欲しかったのだろう。ヤショーダラを弄んだだけだといいながら、実は彼女を愛してしまっていた。
 
 ブッダの教団を分裂させて、勢力を増したのも一時のこと。厳しい戒律を科しても、偽善は見破られ提婆達多は、弟子にだんだんと去られてしまう。
 晩年彼は、若々しいアジャータシャトル王に恋慕するが・・・。思いは届かない。
 彼は今はの際に、ブッダに別れが言いたいと車に乗せられて出かけるが、遂に再会することが出来ず事切れる・・・哀れであった。これこそ、凡夫の私達の姿。救われて欲しい。

 既に多くの人が書いている仏陀の生涯、評伝からオリジナルの提婆達多の心のどろどろした部分、怒りや苦しみ、哀しみを人間ドラマとして見事に構築している。
 
 もっとインドの自然、風物を描写する時に、具体的な樹や花の名前があっても良かった。

 後篇の父王を餓死させてしまうアジャータシャトル王子の話は、やるせない。もどかしかった。ブッダは求められなければ、悩みの相談を受けることはない。助けには行かないのだ。

 読み飛ばした難しい漢字や言葉を、これからゆっくり辞書で調べよう。