ちょス飯の読書日記

 『桜雨』   ★★★★☆
 

桜雨

桜雨

 都市は冥界である。
 自分が生きているのか、死んでいるのか分からなくなる。という件が、重要なテ−マとなっている。

 戦前の芸術村・池袋モンパルナスの小さなアトリエつきの貸家に住み、己の絵のモデルとするため、妻妾(同棲相手と新しい恋人)を同居させて互いの女を、嫉妬に狂わせたという西游のでたらめぶりが恐ろしい。

 
 彼の絵の才能、絵に対する凄まじい執念は分かるが、人物としての魅力が描ききれていない。性欲が強いだけでは魅力がない。
 故に、マイナス1★とした。

 発刊は1995年。坂東35才のときの作品だが、なんと老練な描きぶりだろうか。

 年寄りの心身の、スケッチが素晴らしい。
 
 ヒロイン小夜を愛し続けていたものの、他の女性と結婚して子どもまでもうけたのに、戦地で顔半分にひどいやけどを負い、映画俳優の夢敗れた雄吉が哀れだった。妻子も、東京大空襲で亡くし、彼は桶職人としてひっそりと暮らして、誰にも看取られずに急逝していく。

 大都会の魅力と、孤独。お金の無い都会人の惨めさも、よく描かれている。

 殺したいほど憎い相手が、実は最愛の男、という凄まじい展開に恐怖した。