ちょス飯の読書日記
『桜雨』 ★★★★☆
- 作者: 坂東真砂子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1995/10
- メディア: 単行本
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都市は冥界である。
自分が生きているのか、死んでいるのか分からなくなる。という件が、重要なテ−マとなっている。
戦前の芸術村・池袋モンパルナスの小さなアトリエつきの貸家に住み、己の絵のモデルとするため、妻妾(同棲相手と新しい恋人)を同居させて互いの女を、嫉妬に狂わせたという西游のでたらめぶりが恐ろしい。
彼の絵の才能、絵に対する凄まじい執念は分かるが、人物としての魅力が描ききれていない。性欲が強いだけでは魅力がない。
故に、マイナス1★とした。
発刊は1995年。坂東35才のときの作品だが、なんと老練な描きぶりだろうか。
年寄りの心身の、スケッチが素晴らしい。
ヒロイン小夜を愛し続けていたものの、他の女性と結婚して子どもまでもうけたのに、戦地で顔半分にひどいやけどを負い、映画俳優の夢敗れた雄吉が哀れだった。妻子も、東京大空襲で亡くし、彼は桶職人としてひっそりと暮らして、誰にも看取られずに急逝していく。
大都会の魅力と、孤独。お金の無い都会人の惨めさも、よく描かれている。
殺したいほど憎い相手が、実は最愛の男、という凄まじい展開に恐怖した。