ちょス飯の読書日記

 『牛久沼のほとり』    ★★★★★

 暮らしの手帖に連載されていた、昭和58年・暮らしの手帖社発行の住井すゑ氏81歳時のエッセイ集。

 日々、新聞記事など目にしたものから70年以上前の著者の子どものころを想起したり、知識人との交流、近隣の農民達との交流、著者自身の農婦としての暮らし、食べ物、自然、木綿、戦争と平和・・・いろいろなものや事柄への、あたたかいまなざしを感じられるエッセイ集だ。

 可笑しい話題もある。

 臭い屁をこいてばかりいる級友の、屁を何とかするにはどうしたら良いか。先生は、「研究しなさい」と生徒に言った。
 これは、可笑しかった。そして、切なかった。結局、屁こき虫といじめられていた少年は、家で米を食べられず、甘藷(さつまいも)ばかりを食べていた。何故か。それは、その子の家はやせた土地しか持たないから、米や麦が育たない。
 何故か。それは、戦争で焼け出されて大阪から田舎へ転居してきたから。では、その子の屁の原因は、戦争ではないか。

 ・・・・結局、級友達も、その子の家の畑を耕し土地を肥やし、麦が育つようにして、食糧事情が改善されると彼の屁をこく回数が減っていったという。

 これを指導したのは、非常に教育熱心な先生で、校長になったが、お上の勤務評定に反対して、地方の小さな村に平教員として飛ばされてきたのだという。

 また、お正月が悲しい、というのも切なかった。著者は、裕福な家庭に育ったが、自分の晴れ着やぽっくりを身に付けて、行った小学校で、新しい下駄も晴れ着も買ってもらえない子ども達を見て、切なくなったという。

 住井氏は、優しい、そして差別を許さない強い人だったのだろう。