ちょス飯の読書日記

 『貌孕み』   ★★★★☆

貌孕み (文春文庫)

貌孕み (文春文庫)

 不思議な書き方の短編集。平田篤胤が、養子にした天狗小僧寅吉、後の嘉津間が、現代の日本にも、未来の日本にも、イタリアへも南国の島へも、一と飛びにやって来て、そこで見聞きしたことを話す。

 昔の人が、現代にやって来てまたもとの世界に戻る、という物語の短編集。現代の言葉は使われず、嘉津間の知る言葉で語られるので、ビルは高楼などと変換されている。

 鬼子母神の話は、悲しかった。父に失踪された母親が、懸命に育てて来た30代の一人息子を離そうとしない。恋人が出来るたびに、別れさせてしまう・・・・。

 未来の日本は、格差が広がり金持ちだけが良い暮らしをしていた。

 とくに、整形手術で、美しくなれば自分は今とは違った人生を楽しめる、という今の風潮に対して、「自分であろうとする」ことが真の幸せだとする表題作と贅沢ができなくなって、夫を刺してしまう女の話『火札』、ブスな女友達に彼氏ができたとたんに猫を殺し始めてしまうブスなイラストレーターの話『猫女』が、面白かった。

 最後に、嘉津間の正体が明かされるが、これは蛇足。不明のままで良い。