ちょス飯の読書日記

 『神祭』  ★★★★★

神祭 (角川文庫)

神祭 (角川文庫)

 初めて 坂東眞砂子の作品を読んだ。これは、恐ろしくて面白い短編ばかり。
 怖くて気持ち悪いが、ユーモラスでもある。

 表題作は老婆由喜が、稲刈りをしているところから始まる。ふっとある祭りの日の光景を思い出す。その一瞬のことを描いている。

 奇しくも、知人が同じ体験をしている。彼女も、自宅で飼っていた、卵を産まなくなった雌鳥の首をちょん切るところを、見てしまった。鶏は、何故か頭が切り離されても、首から下は生きていて走って行ったと。

 そのときの光景が忘れられず、知人はチキンを一切食べない。

 由喜も、鶏を哀れに思う。女の子を既に2人産んでいるのに、姑は男の子を産め産め、とうるさい。

 卵を産めなくなった鶏と男の子を産めなかった自分が、同じように思えたのだった。これは怖いが、素敵な結末だから、読んでみ。

 他も、皆面白い。巻末の戦後10年、ずっとアメリカ人を憎み続けていた青年の話。戦後、一般の日本人はどう思って、アメリカを許して生きてきたのか、ひとつの答えがあった。

 ごくごく、平凡な人ばかりが登場する。そこに起きるのは、日常的で、小さな小さな事件。こういう小説もあるのか。