大滝秀治さんを偲ぶ

 録画してあった、大滝秀治の追悼番組、『オールドフレンド』と『塀の中の中学校』を最近見た。

 『オールド・・・』は、20年以上前のドラマ。奈良岡萌子と西田敏行が悼む人としてゲスト出演。昔から、おじいさん役だったが、87才で最期の映画出演となった漁師のお姿と変わらない。当時のメイクの黒木瞳が、野暮ったく若々しかった。
 28才まで、やもめの父の世話をしていた娘は、大学病院で薬剤師をしているのだが、広島焼き(お好み焼き)店の店長で、高卒の彼氏と結婚するという。
 娘を男にトラレル哀しさ、寂しさ。やがて近づく「死」。
 高速道路の料金所に、勤務しているおじいさんたち仲間との交流。見栄張りだった「社長」の自殺・・・
 年を取る淋しさ・・・
 家族との軋轢を抱える親友との初めての「さぼり」旅行。東北への美しい紅葉見物のはずが、腹下りの友と、大喧嘩して・・・江戸弁の松村達雄のぽんぽん出る口調が良い。でも、すぐ仲直り。
 年寄りは、癇癪持ちでもある。

 本当に切実な問題を織り交ぜながらも、ゆっくり作られたドラマだった。大滝の演技は、正にありのまま。演技していないように見えてしまう。泣いて笑った。


 『塀の中の中学校』は、TBSの良心を感じたドラマ。受刑者の再犯を防ぐものは何か。読み書きそろばん、社会復帰した時の、経済的自立への道だ。
 また、何故犯罪を犯してしまったのか・・・その事情は本人の資質が、一番なのだが、受刑者ひとりひとりのあまりに過酷な境遇に涙、涙。

 重い重いテーマ。それを、内館 牧子が彼女好みの相撲取り「名寄岩」とボクサー「ファイティング原田」を、ふたりの老受刑者がそれぞれ心の支えにしていると描いていた。渡辺 謙が主演だろう。彼が、息子に『よだかの星』を差し入れられ読めるようになっていく。穏やかになって行く。自殺を思い止まる、更生したいと思うようになる、というのが。
 だが、脇役の物語もそれぞれ、本当に練り上げられており、切なく胸に迫る。

 とくに佐々木役の大滝だ。
 認知症の妻を10年介護して、殺してしまったというが・・・。学んでも、何にも活かせません、と断言していたが・・・学ぶ態度の熱心さ、真剣さ。心臓病や糖尿など、病を抱えながら必死に学ぶ。

 オダギリジョーが、教官役で、頼りなく生徒よりずっと小物。写真家を目指しているが、夢破れる。その滑稽な哀しさ。大切な学習発表会を、自棄酒で遅刻してしまう。ここが、イイ!!

 見ているものは、初めはオダギリと同じ。受刑者に教育など無駄ではと、思う。だが、だんだんどんなに教育が人を変えるかを理解するようになる。
 もう、生徒と同じ気持ちになっている。
 
 きれいごとばかりではないと、落ちこぼれの生徒もいる・・・彼が、作業をサボりたくて中学に入学しただけだ、という。皆が努力するのを妨害し、退学したいという。これも、事実に基づいていることだろう。だが、彼こそが謙さん演じる川田の希望の灯をもたらす。・・・・彼が、植木を育てることを、皆が誉めてやれたら・・・、彼も変わるのでは、と観客は思う。

 これは、本当にうまい脚本だと思う。

 とても味わい深い、社会に問うドラマ。社会を変えるドラマだ。

 卒業して、またそれぞれの刑務所に戻るとき、大滝が旭川刑務所まで護送されるシーン。電車内で弁当を食べるところ、最後に教官に手錠のまま、両手で敬礼して、にこにこしている姿・・・本当にあたたかい表情だ。「勉強して、初めて分かりました。生きることは、いいことだ。女房も生きていたかったと思います!!」

 だんだん怒鳴るように、大声で決めゼリフを言う、彼の芝居を忘れない。

 再犯をなくすためには、刑務所内での教育がどんなに大切か。そして、社会に復帰して働いて税金を払ってもらえば、元は取れるし、社会の安全性が高まる。