ちょス飯の読書日記

 三田誠広著  『白痴』    ★★★★☆
  

[新釈]白痴――書かれざる物語

[新釈]白痴――書かれざる物語

 オリジナルのドストエフスキーの『白痴』は未読。これは、ドス氏の創作ノートから書かれた三田氏版。
 ロシアの人名はやたらに長く、愛称が本名とかなり異なるので誰のことを呼んでいるのかなかなか覚えられない。けれど、三田氏の書いたロシア文学は、だんだん面白さが加速していった。とても読みやすく、まるで劇のシナリオの様だった。
 無神論
 知識階層の青年の、理想論。
 そして、余命半年となった若者の生きる意味とは・・・。
 実験的な、お話のためのおはなし、思想小説ともいえる。
 利己主義に徹するという白痴が実は、非常な母思いで理想論者である。彼のしていることは、すべて人助けなのだった。
 登場する四人の女性が、素晴らしく美しい。そして、狂っているところが文学的だ。
 また主役、脇役、端役の男性たちに、それぞれ父親が不在だというのも、ちょっと作りすぎだが・・・

 ラストは、京極夏彦の『死ねばいいのに』と通じていた。

 三田氏が、聖書の黙示録に出てくる「にがよもぎ」に「チェルノブイリ」と読み仮名をふっているのが気になった。
 作中に出てきた『ファウスト』『若きウェルテルの悩み』、プーシキンの著作物など読んでみたい。