ちょス飯の読書日記

 京極夏彦著 『数えずの井戸』 ★★★☆☆
   

数えずの井戸

数えずの井戸

 一文ずつ、行を替えて書かれる京極作品。
非常に読みやすいが、紙がもったいないとも思う。
 登場するひとりひとりの物語が、一章ずつ二人か三人の会話で語られていく。
 数学の証明式のような書き方だ。

 『番町皿屋敷』をもとに新説京極版の「番町皿屋敷」を書いたもの。『嗤う伊右衛門』も、怪談を京極氏が、『四谷怪談』を自在に書き直していたが・・・・。この作品は、『嗤う伊右衛門』ほどの凄まじい怨念は描かれていない。小粒だ。
 
 純真無垢で、美しい愚鈍な菊。無欲で自分の美しさにも気ずいていない。けれど彼女は心が満ちていると言う。彼女は、とても賢いが外に見えるのは、不器用で失敗ばかりしている、おどおどとした姿。
 ちょっといたいけすぎて、完璧すぎるヒロインだ。
菊に魅力がないので、マイナス1★。
 
 人物紹介の前置き、伏線が長い長い。だんだん、恐ろしい展開に向かっていくが、いよいよの大団円はぷっつりと書かれていない。

 事件後のエピローグの形で、事件を見届けた徳次郎が、又市に仔細を語る。
 読者は、仄聞で真相を推理しなければならない。

 けれど、最後の落ちは鮮やか、鮮やか過ぎる。
まさに、京極節炸裂。

 井戸は、埋め立てられるが、菊と三平と静はあの世とやらで静かに暮らしているのだろう。
 決して、菊は生前受けた仕打ちを恨んだり呪ったりすることはない。

 当主青山主膳と菊の心の交流のはかなさはよくわかったが、恋愛関係となっても良かったのではないか。

 「ほめられる」ことのみを、金科玉条に使命としているお側用人柴田・・・・滑稽で浅薄ながら忠義の人。しかし、彼の思惑はすべて悪い方向へ。
 ペーソスを感じた。主君のために、お家のために。哀れな母子のために。彼のなしたことが、ことごとく
・・・・。狂言回しが、破滅していく。ちょっと辛すぎる。
故にマイナス1★

 家宝、神器と呼ばれる姫谷焼きの十枚揃いの小皿。この一枚が、人命より重いわけはない。