ちょス飯の読書日記
スティーグ・ラーソン著 『ミレニアムⅠ』上・下
★★★★☆ ネタばれ注意
- 作者: スティーグ・ラーソン,ヘレンハルメ美穂,岩澤雅利
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/12/11
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スウェーデンの小説は『長靴下のピッピ』以来。
登場人物の名が長くていちいち、フルネームで書かれておりこれは、読むのに難儀してちっとも憶えられなかった。
フィンランドは高い税金で社会福祉が充実していると聞いていたが・・・。女性に対する暴力、性的な暴力がひどいことにまず、驚いた。
筆者は、そのことを怒り、悲しんでいた。なんとかしたいと思っていたのだろう。
副主人公リスベット・サランデルは、非常に魅力的だ。すごい女性だ。怖い。外見は少年のようでやせぎす。いつも度派手な不良少女の格好をしている。アスペルガー症候群の特徴を持ち、知的障がい者の振りをしている。怒りを抑制できず生き難い。しかし、献身的な後見人を得て少しずつ成長している。実は、ハッカーであり、すご腕の身辺調査員だ。写真のように一瞬にして場面を記憶できる。
主人公はミカエル・ブルムクヴィスト。筆者と同じジャーナリストで月刊雑誌『ミレニアム』の記者兼共同発行責任者。×Ⅰで、年頃の娘がいるが女性に優しくて、もてる。誰にも、なびかなかったリスベットも、彼に生まれて初めて恋心を抱く。
大財閥ヴァンゲル・グループの前会長ヘンリックの姪ハリエットが1958年に行方不明になった。彼女をあきらめきれずミカエルに、捜査を依頼する。四十年解けなかった謎が、ミカエルによって明かされようとするが・・・
解決の糸口が、姪の当日の写真だ。写真がものを語る。保存してあったからだが・・・・。これは、写真がありのままの事実を写しだしているからだろう。
また、物語の大元となった連続強姦殺人事件の傷ましい情況が、旧約聖書からの引用に従っているというのは、よく使用されてきたパターンだが、犯人の異常性、身勝手さに怒りと恐怖を覚える。
「女性を誘拐し、監禁してなぶり殺しにする」という犯罪は小説の中だけではなく実際に世界各地で頻発している。震撼。
異常な犯罪は読み物としては「娯楽」なのか。面白い、ともいえる。
これは、推理小説の面だけではなくて、巨悪のマネーロンダリングの仕組みを暴いている。
冒頭でミカエルを罠に仕掛けた張本人の大物実業家ヴェンネルストレムを、リスベットが完璧に成敗しているが、もう少しスリルがあっても良かった。
彼の人物像を、もっと語ってほしかった。魅力的な悪役が物語を膨らませる。
本の後半で事件が解決したのには驚いた。
まだ、第二部、三部に続くからなのか・・・。
印象的なセリフ 下巻412p より
「私たちはいま、スウェーデンの株式市場では前代未聞の崩壊劇を目のあたりにしているんですよ。(以下略)」(ミカエルが、ヴェンネルストレムの悪行を暴いた事による、国内経済の混乱をなじるテレビ記者に答えて)「スウェーデン経済とスウェーデンの株式市場とを混同してはいけません。スウェーデン経済とは、この国で日々生産されている商品とサービスの総量です。(以下略)その活力は一週間前から何も変わっていません。」「株式市場は、これとはまったく別物です。そこには経済もなければ、商品やサービスの生産もない。あるのは幻想だけです。企業の価値を時々刻々、十億単位で勝手に決め付けているだけなんです。」
2008年のリーマンショックを、予見していたかのような、幻想経済のグローバル化、世界同時株安の今日を、筆者は見事に看破している。
彼は2004年『ミレニアム』の大ヒットを知らずに亡くなったという。続編を早く読みたい。