ちょス飯の読書日記

『オリンピックの身代金』   ★★★★★
    

オリンピックの身代金

オリンピックの身代金

 これは、面白い。昭和39年10月10日東京オリンピック開会式を妨害しようとする男の物語。
各章が「日付」の題名で、しかも前後が入れ替わり時が行きつ戻りつするのも面白かった。一気に読んだ。ただ読者に親切すぎるかな。描写が説明的だ。生真面目・几帳面な奥田英朗先生。登場人物がほとんど「いいもの」ばかりなのがちょっといかんかな。
 地方と東京の格差、孫請けと下請けの格差、金持ちと貧乏人の格差・・・・。東京信仰。東大信仰。公安=国家権力の恐ろしさ。さらに公安と警察の確執がよく描かれている。
 日雇労働者が、突貫工事で造り上げたオリンピック会場、新幹線、モノレール・・・・。過酷な労働現場。数百人もの出稼ぎの男達が事故死したという。故郷の妻子を捨て、東京で家庭を持つものも・・・・
 牛馬のごとく使い捨てられる出稼ぎ労働者の実態を、身を持って知った東大院生の島崎国男・・・・。 なぜ日本ではプロレタリア革命は起きないのかーーー。国男は「頭がいいというだけで、自分が楽に暮らしていける」ことに罪悪感を持つ。しかし、相棒の箱師村田や、忍耐一途でこき使われている出稼ぎのおじさんたちから、身体から得た言葉を聴く。それは、本を読んでいるだけでは決して得られぬ言葉だった。
 「・・・東京がながったら、日本人は意気消沈してしまうべ。今は多少不公平でも石を高く積み上げる時期なのと違うか。横に積むのはもう少し先だ」「村田さんは、東京が好きなんですか」「ああ、好きだ。誰もおらのこどを知らねえところなんか、とくに好きだ」
 (塩野のセリフ)「・・・・おめは東大行くぐらい頭さいいんだがら、世の中を変えてけれ。おらたち日雇い人夫が人柱にされない社会にしてけれ。」
 
 作者五才の時の物語。本当に現場で収録してきたかのような昭和39年の活写だ。
 これは、映画になるでょう。