ちょス飯の映画評

 『早春』  ★★★★★

早春 デジタル修復版 [DVD]

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 戦後間もない、焼け跡から復興を果たした東京。五反田の長屋(社宅だろうか?)に暮らしている、大企業に勤めるサラリーマン夫婦の生活がユーモラスに描かれている。
 それにしても、小津安二郎作品に登場する主役たちはため息が出るほど美しい。池部良淡島千景が夫婦で、岸恵子が夫の浮気相手。サラリーマンたちの愚痴が、リアルで脚本は彼らの生の声を多く取材して集めたのだろう。通勤電車が満員で辛いことや、嫌な上司のこと。しかし、いきなり地方への転勤を打診されて、主人公は了承するが、それは東京を離れることで、浮気相手とは縁を切り、妻と出直しをしたいという落ちだった。夫婦には、早逝してしまった坊やがいたというのも、妻の鬱積の大本であったというのも、設定が安直でない。

 妻の母親が浦辺粂子。夫の浮気は当時は問題とされなかったようだ。「私のだんなは、結婚したばかりなのに吉原へ行っていたよ」という。
 隣人のおせっかいな奥さんに、杉村晴子。ちょい役でも、本当にそこに暮らしているおばさんと思えてくる。

 当時の建物や飲み屋、ミルクスタンドの様子など映画は後世に動画で伝えるという役割もあるのだ。岸恵子の、激情する演技。しかし、主人公の送別会ではさばさばと別れる潔さが光った。