ちょス飯の読書日記

 『天湖』  ★★★★☆

天湖

天湖

 ダムに沈んだ村。ダムができて30年後、その村から東京に出て暮らしていた爺さんは発狂して精神病院で死ぬ。
 孫息子は、祖父の遺言を守り彼の故郷に、遺灰を撒くために新盆に帰ってくる。今は湖となった村。そこには、移転した村人たちが集まって来ていた。

 日本中にダムができたことで、飲水や水力発電、防災のために役立っているのは確かだが、人はダムができるときに、立ち退くのだが、鳥や獣は水が入れられたときにい、高いところへ逃げていったかもしれぬが、虫やみみず、小さな生き物たちは溺れて死んでいったことだろう。おけらは必死に前足を掻いて泳いだのかもしれない。
 都会の人々を養うために、辺境の地は犠牲になる。しかし、都会の暮らしはそれほど幸せではなく、爺さんは発狂してしまう。しかし、彼は村の暮らしをいつも思い出していた。

 その箇所では胸が痛んだ。村から退去することが決まって、桜の大木を切り倒すときには、血しぶきが飛んだという。

 さゆりという、唖の巫女が湖から死体で引き上げられ、その真相が最後に語られるが、辺境の村に住む人々の暮らしの豊かな文化、食文化に驚かされた。捨て子だったさゆりを育てたのも、また捨て子だった愛子さんで、彼女は爺さんの母親に育てられている。彼女らには、不思議な力靈性があった。

 主人公の征彦が、祖父の形見として持参したこの村の桑の木で作った琵琶には、その葉を食べて育った蚕の糸が弦として張られている。
 おひなとお桃という、母娘の歌う声に魅せられ、征彦は琵琶の曲を作ろうとするが、完成するまでは書かれていなかったので、1マイナス。