ちょス飯の読書日記

 『眠る魚』  ★★★★★
 

眠る魚

眠る魚

 再読。2014年1月27日に永眠した坂東氏が、その直前10日までウエブマガジン
「レンザブロー」に書き続けた未完の小説だ。

 福島の原発事故から7年。彼女は放射線による汚染とそれを「なかったことにしよう」と穏やかに暮らしている、関東のある架空の集落の人々にいらだっていた。
 日本人の「長いものには巻かれろ、お上には盾突くな、おとなしく周りの人に合わせろ」という風土が肌に合わず、イタリア、タヒチ、バヌアツに暮らしていた坂東氏。

 まだまだ書きたかったことだろう。主人公は、作者と同じく舌癌に罹る。初期に発見されているので、必ず治るという前提で物語は続くのだが、・・・。

 残念だ。「アオイロコ」という生きながら死んでいくという恐ろしい病が集落の若者も年寄りも。光る死体。これから低線量被曝がもたらしているという結論に至る物語だったのだろうか。
 
 『最後の命』  ★★★★★

 

最後の命 (講談社文庫)

最後の命 (講談社文庫)

 性と暴力について、いつも中村文則は描く。変態と呼ばれる人は実際にいるし、いていい、と。
 私達が、こうであるべきだと思って生きている常識をはるかに超えた人の心理を描く。そして、あ、そうか。そうかもしれない。と気づかせてくれる。

 とても汚らしい、恐ろしい、気持ち悪い暗い暗いところを、彼は可視化してくれる。

 主人公とその友人がこどものころ偶然見てしまった輪姦場面が、主人公の心を傷つけるが、友人には性的嗜好を呼び覚まさせる。

 精神を病む人の優しさ。作者は女性のしたたかさを描くが、連続強姦殺人犯(被疑者)に対しても心を寄せる。そこに、驚かせられる。