ちょス飯の映画評

 『シェイプオフウオーター』  ★★★★☆

 劇場公開初日、映画館で見た。『パシフィック・リム』の監督がこのような大人の恋の物語を作るとは!

 耳は聞こえるが、声を出すことができない主人公は、ブスでもないが、美しい顔でもない。中年の独身女性。処女の設定だ。目覚まし時計で起きると、バスタブに湯をためて入るのだが、ひとりで興奮する(自慰場面)のだ。なかなか美しいきめ細やかな肌、痩せすぎだが均整の取れた体。
 ゆで卵を作って、同じアパートの絵描きの友人にも夕食を届けて夜の街に出て、バスに乗る。
 彼女は夜勤で、国家機密の研究所の掃除婦をしている。
 
 彼女は声を出すことができない。しかし、耳は聞こえているので、手話を話す。だが、手話を見て理解できる人はふたり。二人の友人だけが、彼女の言葉を聞く。ひとりは、絵かきのじいさん。もうひとりは職場の同僚。太った黒人女性、おしゃべりでなっていない亭主がいる。

 昨日、アカデミー作品賞と監督賞を受賞したので、ストーリーは省くが、登場人物たちが美しくない人々ばかり。川から捕らえられてきた怪物クリーチャーも、ぬめぬめして恐ろしかった。

 しかし、彼らの繰り広げるドラマはあまりにも美しくて、おかしかった。スリルとサスペンス、そして悲哀。面白いところもあった。
 パイ屋の雇われマスターが、黒人客を追い払う所は、時代背景に忠実に描かれているのだろうが、あっと思った。そう言えば彼らは、それぞれが貧しい人、口の聞けない人、黒人、ソ連人であった・・・。皆々、アメリカ白人から虐げられ差別を受ける人たちなのだった。彼らが、愛する者のためにしたことは。
 大人の夢物語ともいえる。映画は夢物語でいい。・・・。

 日本の特殊メークアーチスト辻氏が、チャーチルのメイクでアカデミー賞を受賞したが、なんとクリーチャーのリアル過ぎる目の玉は、彼が作ったと今朝の情報番組でやっていた。やはり、そうか。目の玉の透明な膜の開き具合がすごい、と私は感心していた。
 クリーチャーの造形と、彼のコミュニケーション能力の発達に、初めは恐ろしいと感じていたのに、ヒロインと同じように親しみを憶え、だんだん神々しいものを感じるようになっていった。

 「彼を助けないなら、私たちは人間じゃない」というヒロインのセリフ。胸にズシンと来た。彼女は彼に恋をしてから、赤い綺麗な靴を買い、赤い服を着るようになる。

 マイナス1星は、パイ屋に絵描きが恋心を持っていたということを、自分が気づけなかったから。LGBTの人々も、当時1962年のアメリカでは、ひどい差別を受けていたのだ。これは、プログラムを読んでやっと分かった。