ちょス飯の読書日記

 『R帝国』 ★★★★☆

R帝国

R帝国

 このように恐ろしい物語があるだろうか。
 いつも、「悪」について描いてきた 著者中村 文則がついに国家の悪行についてを暴いたのである。無論、彼の想像、創作の物語だ。
 しかし、あまりにもリアルであった。
 何処の国の、いつの時代かわからないSFノアール小説だが、沖縄戦でのあまりに異常な日本軍の住民に対する所業や9.11以後イスラム世界を攻撃する理由をもらったアメリカが、石油を独占するのに有利になったという件、現実に起きたことが、架空の小説として登場する。

 「党」がR帝国を民主主義国家であることを、装うために野党を作り、これをまたほしいままに動かしている。
 R国の国民は、皆愛国者で、党に疑問を持ったり反抗してはならない。

 しかし、権力を握り戦争まで、自由に起こせることで喜べるという大「悪」人は、リアリティがなかった。マイナス1。

 人の記憶を消したり入れ替えたりして、弄ぶということも、あまりにも恐ろしいが、近い未来には可能になってくるかもしれない。『私の消滅』でも、既に著者はその恐ろしい実験を描いている。

 抵抗する人々は、すぐに抹殺されてしまうから、R帝国で人々は「抵抗」と言う言葉の意味を知らなくなる。

 救いは、それでも自分を保ち、人々の命をそれぞれに大切だと思う人がいて、巨悪に立ち向かっていること。しかし、裏切りに次ぐ裏切りで、めまぐるしい。

 HPという、国民が全員持っている音声で持ち主の希望を叶える棒状の機具が、決して持ち主に逆らえないはずなのに、知能を持ち始めて恋愛感情を持ったり、それゆえに嫉妬したりする場面は、面白かった。
 しかし、それは国民一人ひとりの動向を国がすべて知り、支配することに使われていたのだが、・・・。いちいち、現実を対応している。

 一般大衆はチンパンジーと同じ。R国の貧困層は8割だが、それを分断して、最下層は移民に請け負わせて憎しみや不満を彼らにぶつけさせるという。これも事実に基いている。

 無差別テロへの怒り、人の命を手段にできる為政者たちへの怒り。良心を持ち続けて生きていくことの、苦しみ。しかし、その人への応援を著者は描きたかったのだろう。
 武器商人や、テロを面白がったり、その資金を援助している輩は確かに存在している。その描写は、あっけなく、それがすさまじい。

 今生きている私たちは、自分の頭でものを考えなければならない。どうか是非、読んでみて下さい。