ちょス飯の読書日記

 『マチネの終わりに』  ★★★★☆

マチネの終わりに

マチネの終わりに

 格調高い文体である。古臭い表現で普段は使われない単語が多い。辞書を引きながら読めば良いのだが、つい想像して読み進めてしまった。
 例えば、慰藉(いしゃ)は、なぐさめいたわることだ。

 ヒロインが最高学歴の女性で、冷静沈着な美女。彼女の恋の相手は天才ギタリスト。最後にこの物語の題名の由来がわかる。
 
 丁寧に丁寧に、大人の恋愛が書かれている。

 大学の先生が普通の恋愛は小説にならない。男女が結ばれてからの日常は「おはなしにならない」からと言っておられたが、ふたりが結ばれない物語だ。最後の場面からどう物語が始まるかは、読者次第なのだろうか。

 ヒロイン小峰洋子の父親がユーゴスラビア出身の映画監督で、母親が長崎出身の被爆者であるという物語も興味深かった。彼女がフランスのジャーナリストとしてイラクに、滞在しており、爆弾テロから一瞬の偶然で助かったというエピソードや、彼女の婚約者がリーマンショックに、関わっていた経済学者だという設定。

 現実の世界を克明に反映させている。このことに驚いた。

 天才ギタリスト蒔野聡史のスランプ。彼の師匠の介護なども。いろいろな困難ばかりがふたりに降りかかり、互いにそれを秘密にして、自分で乗り越えようとする。相手に心配をかけたくないと。

 依存しない自立した個人の恋愛とは、こういう物語なのか。

 偽メールの場面は、悔しかった。しかし、人は害なすものを許して生きていくしか無い。

 完璧すぎてマイナス1