谷口 ジロー氏の『遥かな町へ』

 夜眠るとき、いきなりchosu-pampaが友人cのことを話した。
 こどものいない彼が、あるときふと、自分にはこどもがいないので、遺伝子を残さずに死ぬとしたら、何のために生きているのかわからないと言った。という。

 chosu-manmaも悲しくなった。というのは、cはお見合いで40歳直前に、30歳の女性と結婚した・・・。質素倹約の彼らは還暦になり、大きな家を奥さんの土地に建てた。そのお祝いに駆けつけたが、そのとき初めて、奥さんとchosu-manmaは言葉を交わした。
 今まではchosu-pampaがcに会いに行くと、奥さんはぱっと逃げる。   chosu-manmaは彼女と親しくなりたかったが、数回夫婦でcに会いに行くと、自宅でも待ち合わせでも、必ずそこにいないのだった。
 
 cはこどもがほしかった。無論奥さんもほしかっただろう。しかし、人工授精はうまくいかず、不妊の原因は奥さんの側にあるとのことだった。

 cは出世した。中堅ながら優良企業の社長となった。
 
 確かに、自分のこどもが欲しくて結婚したい人が、大多数だろう。

 最近まで「嫁して3年子なきは去れ。」という言葉があったが、心優しい彼にはこどもがほしいから、君と別れて他の女性と結婚してこどもを手にしたい
とは言えなかったのだろう。そして、ついに62歳になってしまった。
 しかし、昔はごく当たり前にこどものない夫婦は、金持ちであれ貧しい庶民であれ、養子をもらっていた。孤児を育てるのは、ごく普通にあったことだ。何故、日本人は自分のこどもでなければならない、と思う人が多いのだろうか。(夫婦間の人工授精以外にも、金持ちは、海外で卵を買ったり、仮腹で産ませたり、・・・)
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 彼に、今月11日67歳の若さで病死された谷口ジロー氏の『遥かな町へ』を読んでみては、と勧めた。わが家にあり、夫婦で読んでとても感動したのですが、よかったらお貸ししますとメールを送ると「漫画は読まん、忙しい」と返信。
 これは、
 中年男が中学時代にタイムスリップするという、ごく平凡な物語だが・・・。人生がもう一度やり直せたら・・・。
 主人公の父親は彼が中学生の頃、突然失踪している。その理由がついに明かされる。戦争の影もあるが、普遍的なテーマだ。今の生活は、生きているのではない、何かにいつも流されて生きていた。自分の足で立って生きてみたらどうなるだろうか。もしあのとき、別の道を選んでいたら。

 cくんはいい人過ぎて、奥さんを大切にするあまり、もし自分を押し殺しているとしたら・・・いつか、たがが外れたときに爆発してしまうのではないか。
 無論、こどもがいようがいまいが夫婦が愛し合っていれば、楽しい人生を遅れるはずだが。こどもは一時的なアイテムだ。必ず、手元から離れる時が来る。
 と、ふたりで議論して、寝た。
 翌日もchosu-manmaがその話を続けるので、chosu-pampaは、喘息の咳が出てゴホゴホとしながらも、cは今の人生を選んで満足しているし、主体的に生きている。われわれは何も心配しなくても良い、と不機嫌に言うのだった。