読まれない手紙

 多分、彼はこれを読まない。しかし、書かずにはいられない。

 トランクひとつ持って、海を渡ってやってきたZさん。彼女は、Nを一生自分を愛して食べさせてくれると信じてやってきたのだろうに。
 今日、バレンタインディは、彼ら34年目の結婚式記念日。
 
 NはZのせいで、自分の人生を不幸にされたという。Nの両親はふたりの結婚を許すとき、10kg以上やせ細った。それでも、息子の結婚式を祝うためにために大きな宴を開いたのだった。
 しかし、ふたりの間は冷え切ってしまった。
 ここ10数年ほとんど家庭内別居状態で、口も聞かずに暮らしている。
 Nは結婚するときは、借りてきた猫のようにちじこまりおとなしいだけだったが、ものすごい嫉妬心の塊で、Zを愛するあまりに、浮気したと誤解して、ひどくののしり、激しく憎むのだった。

 国際結婚は難しい。しかし、ふたりは3人も子をなし、この子らはいじめられたこともあっただろうに、まっずぐに育った。3人共、モデルになれるくらい美しい。
 ふたりの間には、嫁いだ長女が妊娠中で2人めの孫が生まれようとしている。「どうかどうか、Zを大切にして互いに病を得た今、助け合って暮らしてほしい。」
 キリストに健康なときも、病のときにも互いに助け合うと誓ったではないか。

 N宛にそう、書いた。