父を描く

 chosuが、10歳のとき彼の祖父方の伯父の見舞いのため、帰省し実家の両親と病院へ向かった。
 そのとき、途中の乗替え駅と併設しているデパートで父のために、かっこいいソフト帽を買ってプレゼントした。

 早速、電車を待つ間に、駅のベンチに座る父をchosuに撮影させた。帽子がとても似合っている。父はこのとき、とても高級な仕立ての背広を着ていた。襟巻もエルメスだ。
 というのも、金持ちの母の友人のご主人が休止したので、形見として高級なものを頂いて、これを着こなしたというわけだ。
 おしゃれした父に「これは、遺影にするからね」と言うと、まだまだ元気だった父は、わははと笑ったが、chosu-manmaが頼んだように、ポーズを取ってくれた。顎に手を当てて頷くような仕草。

 あれから20年経った。本当にこの2L写真はわが家の父のための祭壇にずっと飾ってある。
 この写真を白黒コピーでA3に拡大して、絵画教室で「顔を描く(自画像か家族、好きなスター)」という課題の日に、模写デッサンした。

 先生ときたら、このコピーを見て「この人は俳優ですか」という。ははは「父です」と答えると、「では、お父さんは俳優ですか」という。冗談を言わない人なのに、だ。

「いえ、あきんどです」とchosu-manma。父は最後の入院中に同室の患者の奥さんから、「気品がある」と言われましたが、実際は非常に下品な人でしたね。従業員の女性全員のお尻をさわって、「ええケツしとるなあ」とにたりとしていたそうですから。とchosu-manmaが言うと、じじばば教室は大爆笑だ。

 終了時刻が近づいたので、「先生、ジャン・ギャバンができました」とchosu-manmaは先生を呼んだ。

 不思議なことに、写真よりいきいきと父が蘇り、まるで今にもしゃべりだしそうな表情なのだった。
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 父の遺影は、この本の表紙のギャバンより、いい男。ポーズは同じだが、帽子をかぶり、穏やかに微笑んでいる。先生が俳優だと思うのも無理はない。