ちょス飯の映画評

 『お早う』  ★★★★★

お早よう [DVD]

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 昭和30年代。テレビが普及し始めようとするとき、知識人である大家 壮一は。テレビの大きさがその家の文化度(教養だったか?)に反比例すると言ったという。テレビが日本中を「一億総白痴化」する、と予言した。

 まさに、今そのときが来たのかも知れぬ。

 しかし、当時のこども達はテレビの相撲中継に夢中になっていた。テレビの無い家の子は、他所の家へあがりこんででも、見ようとしていたのだ。

 文化住宅というのだろうか。同じ形の平屋が川沿いの堤防の下に、何軒も並んで建っている。ご近所付き合いは、ふとしたことでいざこざが起きて、陰口の言い合いになる。

 杉村春子が、ふてぶてしいおばさんで自然すぎて、まったく演技しているように見えない。

 佐田 啓二は、主人公のきょうだいの英語の先生役。

 彼は、若くして事故死しているが、この画面の中では当たり前だが生き生きと暮らしていた。上品でインテリで、清貧だった。
 昔の映画のなかには、銀幕のスターが閉じ込められているのだなあと、あらためて思った。中井 貴一瓜二つだ。眼と声はすこし違うが・・・。

 ごくごくありふれた日常が描かれるのだが、どうしてもテレビを買ってもらいたい兄弟(中学生と小学生)が、父親と対立し口をきかなくなる。戦後、父親の権威も失墜しつつあるのだ。

 はてさて、・・・。

 それにしても、こどもがおでこや鼻をおされると、ロボットのように「んなっ」という奇妙な音を出す。口で言っているのかと思ったら、一緒に見ていた家人が、「屁の音だ」と教えてくれた。

 友達のひとりは、うまく屁と実をひりわけられず、猿股を何度もを汚してしまう。
 
 小津安二郎にこのような、こどもの屁やうんこのことを表現しようとするやわらかい面があったのか。

 脚本が練りに練られており、まったくごく当たり前の市井の庶民の暮らしが幸せに向って、描かれている。

 ごく普通の暮らしを、ここまで面白おかしく、ちょっぴり哀しく仕上げられるとは。家人はそこに驚嘆した。