ちょス飯の読書日記

 『この子を残して』  ★★★★★

この子を残して

この子を残して

 わたくしは、昭和51年発行 中央出版会 版で読んだ。

 著者は、島根県出身。長崎医大に進み原子科学、物理療法を学ぶが昭和19年医学博士になった翌年、被爆。妻とこどもを一瞬にして亡くすが、生延びた幼子ふたりとの病床での日々のエッセイ集。
 既に、放射線療法を研究しているときに白血病となってしまった永井博士。原爆による自分の体の病態を、研究対象として科学者の冷徹な眼で記録してきたという。

 カトリック信者と科学者の二面は、氏によれはまったく相反しない。
 
 氏は何度も死の淵から生還して、多くの病人怪我人を、倒れるまで救ってきた医師でもある。しかし、寝たきりになって、大変な痛みだったことだろうに、幼子を残してやがて死に行く自分の気持ちを、ユーモアも交えて淡々と綴った。

 母のいないわが子への愛情。神様を信じるゆえの力強さだろうか。

 戦争孤児、原爆孤児をどう育てるか、孤児院の職員の心構えなどを自分のこどものためによくよく考えて論じている。病床からも、社会の矛盾、似非信仰を見定めて批判する眼があった。
 
 強く抱きしめることも、骨が痛くてできぬという父。娘のカヤノが眠っているふりをしている父の顔にほおずりする場面は、涙涙。息子も、死に行く父を大切に思って、一生懸命家事をしている。

 自分なら何が、書き残せるだろうか。

 永井博士は、信仰によって救われている。
こどもにも、何も思い煩わず、神に任せて生きよと。

 挿絵も可愛らしく、永井氏が実はこどもの頃、画家になりたいと思っていたのだそうだ。