ちょス飯の読書日記

 『満願』  ★★★★☆

満願

満願

 これは、怖い怖いミステリー短編集。完全犯罪だったり、事件の真相が誰にも分からないように仕組まれたものだったり・・・。

 老練な作家によるものかと思ったら、作者・米沢 穂信はまだ37才。世に出て、認められてから14年くらいだという。

 岐阜出身の作家の活躍が、このところ目覚しい。
 米沢、朝井 リョウ、池井戸 潤、冲方 丁、奥田 英朗・・・
 
 米沢のものは、初めて読んだが、無駄をそぎ落とした、上記作家の中で一番冷徹な書き方だと感じた。

 「万灯」の灯とは、ホテルから見下ろした大東京に灯る電気の光。主人公が電気を作る天然ガスを得たいがために、犯した罪を暴くものなのか。
 
 先進国のエネルギー開発大事業の蔭で、発展途上国の人間の命が、いとも簡単に犠牲に出来る様子が描かれていた。

 「満願」では、借金取りを殺してしまった貞淑な妻が、大酒飲みの夫より自分のご先祖の栄光を後生大事にしているという事実に驚愕させられた。そして、夫が妻を愛せない理由も。ふたりの馴れ初めは描かれていないが、出来すぎた女房を愛するからこそ、憎い。憎いから酒を呑む、というぐるぐるした関係が良く描かれていた。

 深大寺のだるま市が、重要な伏線として描かれていた。調布市深大寺も行ったことがある場所。また、行って見たくなった。

 願い事を叶えてくれただるまが、刑期を終えた彼女を迎えるのだろうか。

 「関守」も安達が原のようで、面白かった。「柘榴」は、耽美的でフランスの小説のよう(本家を知らんけど)。「夜警」はちょっとひねり過ぎの感がある。どれも、素晴らしい恐ろしい短編集だったが、ひねり過ぎでマイナス1★とする。