ちょス飯の読書日記

 『紙の月』    ★★★★☆
 宮沢りえちゃん主演で映画化されたので、原作を読んでみた。
 ごくごく真面目で優等生の主人公梨花が、勤め先の銀行の預金者から金をどうして騙し取るようになっていったか。

 よくよくわかる展開だった。頭も良い、容姿も美しい、そして正義感が強く心も優しい。しかし梨花は孤独だった。
 結婚して何不自由ない暮らしをしていても、夫はあまり彼女のことを何も知らない。知ろうともしないし、彼女を心身とも愛してもいない。うわべでは何の問題も無い夫婦だが、夫は妻を尊敬しない。思いやることも無い。

 一方大金を持ちながら、家族をも信じず死んで行くのを待つだけの老人が孤独でいる。強欲を離れ、家族に有意義に金を使わせてあげれば、自分も幸福な余生が送られるのに・・・。息子、孫にさえ金をやりたくない老人達。梨花
初めて、横領に手を染めたきっかけは自分の化粧品のためだが、・・・。

 20才も年下の顧客の老人の孫と、恋愛関係になるのも無理なく描かれているが、・・・。

 お金が自分を自由に楽しませてくれる、それは事実だ。しかし、それはいっときの幻だった。どんなに贅沢をしても、若いつばめに貢いで肉体の快楽を得ても、心は休まらない。

 そして、愛するつばめに彼がふさわしい彼女を作ったことを知り、つつましい交際をしている彼らを見て、現実に戻されていくところは、スリリングだった。
 
 構成が面白く、梨花と彼女に関わった友人の日常も交互に描かれている。
 
 最後は、タイに逃げる梨花。逮捕されたいとも思っているところで物語りは終わるが・・・。

 ちょっと、いい子ちゃん過ぎる主人公。へまなところ、無様な様子ももっと描いた方が人間的だ、あるいは、彼女を妬み監視するような同僚もいた方が面白い。夫に対して絶対服従なのも、リアルであるが、貞淑な妻として浮気や不正行為を隠し通すのはどうか。彼を苦しめても良かった。故にひとつ★マイナス。