ちょス飯の読書日記

 『天唄歌い』  ★★★★★

天唄歌い

天唄歌い

 地図にない、原始の人々の住む南洋の孤島、「霊島」(たま島)が舞台。
坂東真砂子の『桃色浄土』で描かれた「補陀落浄土」は、ここのことだろうか。

 寛永14年琉球に向かっていた永栄寿丸が、嵐に遭い沈没。霊島(たまじま)へ、漂着した薩摩藩の通詞で家老補佐 是枝亥次郎が無事に帰還するまでの、物語。

 島民は、他の世界を知らず漂着するものを「犬」と呼ぶ。自分たちの水や食べ物の残りを、ぽいと投げ与える。傷をしたものは、治してくれる。島の女性に誘われれば、犬達はただで、性交を楽しめる。
 
 亥次郎の上役菱田は、先に漂着して暮らし始めていた和人に、島民から「犬」と見なされていると聞き、激怒。
 村長に歯むかおうとするが刀は海の中。村長に棍棒で叩きのめされてしまう。菱田は、大怪我から回復したのに、誇り高く「チェストー」と掛け声を上げて切腹する。

 働かなくとも、食餌を与えられ、昼寝して、女が誘えば自由に抱ける。漂着したものは、ここは天国かも知れないと思い出す。

 漂着者は侍、商人、芸人、水手、坊主、唐人、南蛮人、宣教師・・・それぞれの階層と矜持が天国では、どう変わって行くか。

 若き仏教僧とキリスト教の宣教師の宗教論争とキリスト教が禁止になった当時、火炙りになっても棄教しなかった人の心境が、書かれていて興味深い。

 天唄歌いとは、天の声を村人に伝えるシャーマンのような女のこと。

 島の人々は、犬達をあだ名で呼ぶ。戦いはあっても、殺し合いはしない。女が島の一番偉い人として、君臨しているが、食べ物は皆で集め、バナナの葉に包んだ果物や、魚、木の実を土の中に入れて、焼いて熱くした石で蒸し焼きにして分け合って食べる。リーダー的存在はいるが、原始共同社会といえる。男女は同等で、誰とでも寝る。子どもは、女が育てているようだが。

 ただ、家族が死ぬとその人体までも、蒸し焼きにして食べる、というのには、魂消た。家族の記憶を、体に留めるためという。

 天唄歌いも、死ぬとその体を蒸し焼きにされる。彼女の姪である後継者イオは、泣きながら天唄歌いの唇、頬肉を喰らい、意思を引き継ぐとあるが、・・・凄まじい。

 これは、野蛮ではなくこの島の伝統文化なのだろう。また、取材に基づいた、事実を取り入れたのだろう。

 さて、ここに住むと文明人はどうなっていくのか。女の漂着民はいないのが、少し残念。

 ご一読あれ。
 
 大航海時代に、西洋の国々が小さい島を武力で植民地としていくが、その恐ろしさと島の人々の「尊厳ある」対応が面白かった。

 大団円は、胸のすくものだった。

 桐野夏生の『東京島』は、同じく漂流記で奇天烈な設定で、時代も違うものだったが、断然この小説の重厚さにかなわない。