ちょス飯の映画評

 『あなたを抱きしめる日まで』  ★★★★★ ネタバレ
注意

あなたを抱きしめる日まで [DVD]

あなたを抱きしめる日まで [DVD]

 ラジオ『たまむすび』の映画紹介のコーナーで、町山智浩氏が勧めていた映画だ。

 アイルランド出身で今はイギリスに住む皺だらけのおばあさんが、50年前に産んだ私生児の息子の行方を捜す物語。
 実話に基づく。

 当時は、未婚の女性が子を産むのは大罪。若い娘が、夏祭りの
日、いかすハンサムな男に誘惑されて、子を孕む。

 貧しい娘は、父に感動されて大きな腹を抱え、カトリック教会で出産。4年間教会内に閉じ込められて、洗濯女としてただ働きを強いられ、子とは一日1時間しか会えないという日々を過ごす。

 時々、車がやってきて、男が子らが4、5才くらいになるとどこかへ連れ去って行く。

 金持ちの養子に出されるとのことで、「行きずりの男と寝たという大罪」を犯して子を産み、家族にも見放されて教会しか行き場のない女たちは、「子に対する権利を放棄し、今後絶対に会わない」と誓約書まで書かされてしまう。

 神の名の下に、私生児たちは養子縁組されて、アメリカにひとり1000ドルで売られていた・・・・。

 息子を捜そうと決意し、記者とともに、アメリカへ渡り、移民局の名簿から息子のその後を突き止めてもらうが、・・・彼は、大統領の法律家となり、政府の要人となって活躍していたという。
 しかし、既に10年前彼はエイズで亡くなっていた。カトリックでは許されない同性愛者だった息子。
 だが、母は「そうなるかもしれないと思っていた。繊細だったから」と全く動じない。

 彼女は、息子の生前を知る人たちに彼のことを尋ね歩く。そして・・・・

 息子も、死に直前アイルランドの教会を訪ねて母親を捜していたのに、不正の発覚を恐れて、親子を会わせなかったシスターたちの仕打ち。
 彼女は、老シスターに「許します」と言う。あっと驚いた。「私は、誰も責めない。恨んでいない。」
 そうだ、誰かをずっと憎んだり恨んだりして生きるのは、自分が損だと再確認した。

 シスター達より余程信心深い彼女。

 記者は無宗教者だと、言っていたが・・・。息子を捜す旅は、ふたりに友情をもたらした。

 深い母の愛。愛は強い。

 そして、彼女は子を盗られても30年間看護師として生き、結婚して娘も産み育ててきた。この強さは、いつか息子に会いたい、会える日までしっかり生きるのだという意思あればこそ。

 ユーモアと飾らぬ庶民ぶりとお茶目さと。そして、気品。

 皺だらけのおばあさんが、本当に魅力あふれるヒロインに見えた。