ちょス飯の読書日記

 『葛橋』かずらばし   ★★★★☆

葛橋 (角川文庫)

葛橋 (角川文庫)

 作者の故郷高知の山間の村と海辺の村を舞台にした、主婦や妻に先立たれた男の中短編が3っつ。

 『恵比寿』は面白かったが、最後は悲しかった。龍涎香(りゅうぜんこう)を浜辺で拾った主婦が大金になると聞いて喜ぶが・・・
 龍涎香と言えば『秀吉の枷』に出てきたことを思い出した。秀吉が茶々の腋の匂いにくらくらする場面。

 本当に海辺に漂着する、マッコウクジラの排泄物が数千万もの価値があるのなら、血眼になって捜してみたい。

 主婦が家族皆のために、必死に働く姿。そして、ふと、日常が嫌になってしまう場面が、共感できた。

 『一本樒』いっぽんしきみ、はとても怖い。死んでも、死者はじっと生者を見ている。愛して尽くしてきた夫と妹菜穂に裏切られた志野。

 彼女は夫のために山の木の実で果実酒を作るのだが・・・。
 またたび酒を、私も飲んでみたくなった。茜色になったものを。またたびに寄生するアブラムシが、味をうまくさせるという。
 
 『葛橋』は、とても怖い。最後には、現実と幻が一緒になってしまうが・・・。古事記イザナギノミコトが、亡くなった妻に会いに黄泉の国へ行くと、「決して見ないでくれ」と言われていたのに、醜く腐敗していく妻を見てしまう。そして、追いかけられて・・・。イザナギが逃げるために投げた最初のものが「葛」だったという。
 
 葛橋は、川岸の太い杉の木に先ず、蔓を巻いて対岸に渡し、そこにある杉に巻いて作るというが、太古の昔からこうやって人は橋を架けてきたのだろう。
 この世と黄泉の国を結ぶ橋も葛でできているのか。

 芋壺の中での男女の交わりはすごかったが、最後はちょっと主人公が可愛そうだった。