ちょス飯の読書日記

 『噂の女』★★★☆☆

 まだ、裁判中だが木村佳苗被告をモデルにしたような、肉体を武器に次々と男を篭絡して金をせしめ、風呂でおぼれさせていく糸井美幸の物語。

 極貧のなかで、親の愛情を知らず育った目立たぬおとなしい女の子が、短大時代に急に魔性の女に変わる。そのところは、一切具体的な描写が無い。読者の想像に任せる、ということなのか。

 『模倣犯』でも、犯人ピースの生い立ちは書かれていたが・・・。犯罪にいたる詳細は描かれていなかった。そこは、読者として物足りない。

 各章が、時系列をごちゃごちゃに「〇〇の女」と題して描かれる。地方都市の貧困、役所と建築業の癒着、檀家とお寺の寄付をめぐっての争い、遺産相続の争いなどせこい小さい世界のなかで、糸井があるときは、正義のために権力者を一喝。買春代金を踏み倒す男を、ヤクザの弟にやっつけさせたり・・・。貧困の保育士をホステスに雇ったり・・・。

 読者は、だんだん糸井を女の敵だと思えなくなってくる。

 彼女を弱きものの味方、闇の側だがスーパーヒーローとして応援したくなってきてしまう。

 バイオレンス、ノワールものは、桐野夏生先生の方が、奥田氏より数倍うまく書くが、彼は地方のひとびとの細やかな日常、悲哀、おかしさやしょうもなさ、弱々しさ、地縁、血縁にがんじがらめにされて生きている姿をあぶりだして丁寧に描いている。 
 ユーモアと、庶民の怒りそして諦めがちりばめられている。

 映画に出来そうなお話。

 作者の故郷岐阜が舞台のモデル。方言が懐かしい。