ちょス飯の読書日記

 『獣の奏者』Ⅱ〜Ⅳ  ★★★★☆ ネタばれ注意!!

獣の奏者 II 王獣編

獣の奏者 II 王獣編

獣の奏者 (3)探求編

獣の奏者 (3)探求編

 ああ、これは生き物の記録。「ヒト」は人間以外の動物と心を通わせられるか、結局人間のためにその命を利用するとどうなるのかが、神話のように描かれている。厳かである。静寂がある。エリンの夫と息子を愛する様子。涙がこぼれた。
 だが、エリンの命は救いたかった。たった一人で、国を救うことはできない。
 エリンは指を食いちぎられても、リラン(王獣の名)への深い母のような愛情は、決してぶれない・・・・。

 エリンや夫イアルが大怪我をしたときの表現、痛みや治療の様子がとてもリアルに書かれているので、読んでいても痛い。一人息子のジェシがユグラ火蟻に襲われ瀕死になるところを、エリンが助けその後樹と蟻の関係を話す。
 生き物の不思議な生態は、まだまだ解明されていない。母さんは知りたい。そしてわかったことを少しでも、周りの人に、後の人に伝えたい。「・・・・世界は広くて」「人はとっても小さいから、1人で、すべてを見ることはできない。でも。人は言葉を持っているから、自分が見つけたことを人に伝えることができる。」(第4巻50・51頁)
 これは、まさに学問の意味。人の生きる意味だ。

 エリンが、人であっても人だけの幸せを求められなかった優しさが、自分だけの幸せなど微塵も求めない潔さが切なく悲しかった。
 崇高な神話のような物語。だがこの地球上では、実際に紀元前何千年も前から今日まで、何度悲惨な戦が繰り返されても、尚、無人爆撃機や、大量殺戮兵器など開発競争をし、新たなる戦いに備えている。

 戦いを終わらせるのは、人類の叡智。

 縄張り争いを続けていると、小さい固体だった魚が、あるとき環境の変化で縄張りを無くしたとたん、縄張りを守るための争いをせずにすみ、広々とえさを求められるので、群れ全体が健康になり、大きい個体になれる。・・・という記述に深く感銘を受けた。

 国際間の力の均衡の問題、戦争の起きる訳についての記述もあるが、小学校高学年でも充分理解できるだろう。
 こどもからR100までどなたにもお勧めしたい。著者はアボリジニ研究家、文化人類学者だ。私も先住民の文化や物語を読んでみたい。もっと彼らの知恵を知りたい。