ちょス飯の読書日記

 『木橋』 ★★★☆☆

木橋

木橋

 表題作より、「土堤」が良い。

 まったく父母の愛情を感じられないまま、育ったとある。きょうだいからの日常的な暴力。思い込みと恥じらいから、ちょっとのことに過敏に反応して、逃げてしまうN少年。
 労働の楽しみを、書いているところは美しい描写だ。

 冒頭、飲んだくれの男が、どぶ川に飛び込み泳ぐところを、野次馬があざ笑う場面で、自分の父を思い出すところは、恐ろしかった。
 Nはあざ笑うものに、激しい怒りを覚えるが、彼は実は父を非常に愛していたのだろう。愛しているものから、一切愛してもらえなかったら・・・本当に恐ろしい。
 愛情と食べ物に飢えて育った少年が、拳銃を手にいれ4人もの人を殺し、死刑囚永山 則夫となったが、・・・獄中で作家になり、社会に死刑廃止を訴え、必死に生きようとした。
 彼が人を信じられないのは、確かに環境により形成された、強いられた性質かもしれないが、残念だ。著作の中に、美しいものに憧れたり人から親切にされる場面もある。彼が行くあてを失い、野宿するのはかわいそうだと思ったが、仲間になればマイナス面だけではなく、宿や飯にも確保できたかもしれない。
 彼自身の、脳にPTSDによる、海馬の萎縮や損傷、未発達の部分があったとしか思えない。傷つけられたのは確かだ。
 だが、人は人によって癒されることもできる。
 どうしてもっと、行政側は彼に愛情をもって接してくれなかったのだろうか。
 死刑を執行されて、初めて網走の海に遺灰となって辿り着いたというが・・・
 ひとり目を、殺してしまった時、何故、警察が捕まえてくれなかったのか、残念だ。