ちょス飯の読書日記

 『元職員』 ★★★★★

元職員 (100周年書き下ろし)

元職員 (100周年書き下ろし)

 これは、面白い。『悪人』作者の描いた、犯罪者の心理劇。舞台はタイ、バンコク
 「貧しい国」タイで、日本国内ではできない贅沢をしてタイ人を潤している、嘘つきな日本人。
 私にも覚えがある。
 日本では最低賃金でかつかつの暮らしをしている私達が、20年位前にタイへ観光に行った。
 街は、好景気でビルの建設ラッシュ。日本では決して泊まれない高級ホテルに泊まり、むせ返る暑さと臭気、人々の群れ、活気。大渋滞を味わった。
 何故か、土産を買う時に「タイ人よりわれわれ日本人は、金持ちで偉いんだ」などと思ってしまったものだ。

 金持ちの中年男の、1週間のバカンス。現地のイタリアレストランで働く青年に、上玉の若い娼婦を斡旋される。

 金はいくらでも、彼女に使える。

 が、時々職場や妻のことを思い出す。だんだん、彼は何者なのか分かってくる。彼は、実はごく普通の真面目な、公社職員だ。

 では、何故、そんなにたくさん散在できるのか?
 
 彼の心理描写が良い。手が震える。足が震える。

 最後に彼は、帰りの飛行機の中で笑いが止まらなくなる。これは、怖い。
 
 彼を殴り倒す、ムエタイボクサー(娼婦の弟)の鉄拳に筆者のタイの人々への愛を感じた。