ちょす飯の読書日記 『優しいおとな』
桐野夏生『優しいおとな』★★★★☆ ネタばれ注意
- 作者: 桐野夏生
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2010/09
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 49回
- この商品を含むブログ (25件) を見る
でも、最後にやっと主人公イオンは、自分の過去を知り両親と再会し、心の安らぎを得る。が、恐らく命の火の消える瞬間の幻影だ。マッチ売りの少女のような終わり方だ。
舞台は近未来の日本、渋谷でホームレスとなり、ひとりで生き抜こうとする15才の少年を描いた実験的小説。
両親を知らず、児童保護センターを脱走して、毎日ひたすら食糧確保だけを考えて、真剣に生きるイオンが、かつて共に暮らしていた自分の愛するきょうだい「鉄」と「銅」に再会しようと、地下にもぐる。
捨てられた子どもたちを拾い、地下で「夜光部隊の軍人」として育てている大佐。
ホームレス相手に貸しロッカー業をするどけちな「拳銃ばあさん」。
地下は平等だ、と自ら目をつぶし闇人となり、歌を作る「錫」。
優しいおとな、「モガミ」。
母子ホームレスのリーダー、ケミカル。
ケミカルの元夫ボンズなどなどが、劇画タッチで描かれ、あっという間に終わってしまった物語。
短い。もう少し、長く読みたかった。
子どもの権利を守るには、どうしたら良いのか。
モガミが語った、家族に、子育てできる能力のない場合もあり、逆に有能な場合もある。あえて、両親を教えず、集団で平等におとなたちが、年齢の異なる複数の子どもたちを育てるという実験。
これは恐ろしい。たとえ、こどもの幸せを願うためのものだとしても、人間を実験に使うことは許されない。
・・・集団保育と別に親や家族から、たっぷり愛されることは、両輪であるべきだ。
だが、・・・・子育てにおける平等は、あり得ない。
家族から虐待を受けて育ち、犯罪者になってしまった子どもの場合は、大いに行政、NPOなど「優しいおとな」から愛情を与えなければならない。矯正教育は、本人だけでなく親にも必要だ。
逆に両親に愛され、甘えて育った子どもの中には、少しの障害も突破できず、引きこもったり社会に適応できなくなる場合もある。子育ては難しい。ホームレスになれば、すぐに餓死するだろう。
親なし、宿無しでもイオンは、成長し生き抜こうとした。愛してくれたものを、追い求め、周りも彼のことをわかってくれた。満足だっただろう。
けれど、読み手は辛かった。故に、マイナス1★
桐野氏の、虐待される子どもたちへの応援メッセージであり、虐待を防止できない日本社会やアカデミズムへの批判の書だ。