ちょス飯の読書日記

 『ドグラ・マグラ』 上・下  ★★☆☆☆
 ネタばれ注意

ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)

ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)

ドグラ・マグラ(下) (角川文庫)

ドグラ・マグラ(下) (角川文庫)

 米倉
 これを読むと、一度は精神に異常をきたすなどと伝えれているそうだが、なんのなんの。
 それほどでもない、奇妙奇天烈な、怪奇エログロ百科事典記事的犯罪伝奇小説である。
 玄宗皇帝と楊貴妃の愛欲の日々から始まる1200年の物語であり、精神病院の中で起きた殺戮事件の真相を行きつ戻りつ、真偽がくるくる回転する、一瞬の物語でもある。
 途中「きちがい』と言う言葉が何度も何度も繰り返される。あほだら教の祭文の歌がすごい。ちゃかぽこちゃかぽこ、と延々と続く。これは至極愉快だった。
 昭和十年の作だというが、言文一致の表現に驚く。また、あるところで謎の絵巻物の縁起を語るのは文語体。
 
 「胎児の夢」と「心理遺伝」の実験。果たして実験は成功し、大勢の犠牲を生む。学問を究めるとき悪魔が取り付くのだろうか。
 学者が持論を確かめたくて、人の生命を奪うことも厭わず、人体を使う恐ろしさと愚かさ。
 物語の語り手は、被験者に選ばれた名前を忘れた青年である。彼が、何故ここにいるのか。九州大学医学部の精神科の七号病室で目覚めるところからこの物語が始まる。
 彼が、覚醒するまでの間の物語の中に、母の息子の幸せを願う一文が絵巻物に現れる。ここは良かった。だから★★。
 自分の思うままに実験を成功させ、それを見届けて自決するMは、満足できて幸せだっただろうか。

 新聞の見出し記事が、でかでかと六ミリ角の文字で書かれている。このように、活字の大きさまで変えて、衝撃を高めて表現しようとしている。このような物語は初めてだ。その奇っ怪さには、驚き面白いと思った。

 精神病院に入院しているものだけではなく、地球上すべて、どの人間も解放されている狂人なのだというМ氏のセリフは、作者の実感だろう。