ちょス飯の読書日記

 手塚治虫著 『手塚治虫の描いた戦争』 ★★★★★
  

手塚治虫の描いた戦争 (朝日文庫)

手塚治虫の描いた戦争 (朝日文庫)

 反戦マンガの短編集。
 「イエローダスト」は、恐ろしい話。食べると「人殺し」をしたくなる食べ物があり、戦地の兵士に食べさせているという。子ども達が犠牲になるのは。紙上のことでも悲しいし辛い。

 初めて読むものもあったが、ザ・クレーター「墜落機」が一番すごい。戦争の酷さとプロパガンダ、戦争を指導する者たち。泣くのは、息子を亡くした母だけ。
 けれど、最期にオクノは自分に「死ね」と命じた自軍基地へ、突撃する。

 限られた短い紙幅のなかに、よくこんなに様々な反戦の物語を描けるものだ。無論、元ネタはあるのだろう。手塚の読書量、記憶力に驚く。そして、根底にはいつも小さいもの、弱者への愛があふれている。
 彼は「自分には、絵の才能がない」と嘆いていたそうだが、一読者の私には、とてもうまい絵に思える。
 とても滑らかでものすごい速さでペンを動かして描いたに違いない、その草書体のような人物像は独特である。彼の大好きな昆虫の絵もすごい。女郎蜘蛛の淫猥な恐ろしさ、蝶・ウラジロミドリシジミの美しさよ!