ちょス飯の読書日記

  山本譲司著 『累犯障害者』  ★★★★★
   

累犯障害者

累犯障害者

 実際の話。私達の知らない塀の中に、多くの心身障害者がおり、とくに知的障害者があまりに悲惨な情況におかれている。
 そもそも、犯罪を犯さずに済むように教育され、地域で守られていれば・・・・と思う。しかし、自分のしたことの犯罪性を理解できぬものもいるという。

 レッサーパンダ帽の男の通り魔殺人は、被害者の短大生の側からすれば、万死をもっても許されざる犯罪だ。しかし、彼の生育歴、福祉のまったく機能しなかった現状を知った。福祉行政の無機能ぶりにいいようのない怒りと悲しみを憶える。

 最終章の、中度の知的障害者の刑事裁判の様子は、本当に怒りと悲しみで読んだ。
 自分がかつて暮らしていた住居に、既に母は彼が服役している間に亡くなっていたのに、彼はただひとりの自分を愛してくれる母を捜しに行ってしまった。そして「住居侵入罪」に問われたのである。
 以下、文庫版より抜粋 297 〜298頁
 突然、被告人が堰を切ったように泣き声を上げだした。・・・・・「おかーたーん、おかーたーん、うぉー、うぉー」
 母親に救いを求めるように、あちこちに目を走らせる被告人。するとだ。ズボンの裾から液体が漏れてきた。どうやら、彼は失禁してしまったらしい。・・・「はい、はい、休廷」
 裁判官が、邪険にそう言い放つ。

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 知的障害者の累犯の背景にあるものを山本氏が、取材、精力的に改善策を行政に働きかけ実際に国を動かし始めている。
 これを読んでしまっては、傍観者でいられない。
 『獄窓記』を書く経緯は、彼が塀の中に入ったから。けれど、彼が入ってこれを書いてくれたお蔭で私たちは、このようなことを知ることができた。