ちょス飯の読書日記

 『名もなき毒

名もなき毒

名もなき毒

 ★★★★☆
 東京新聞連載中、毎朝読んでいたが、最終章は加筆されたというので、改作されたものも、まとめて読んでみたかった。
 これは、丁寧に書かれている。

 ものすごい悪女原田いずみ。彼女は常に怒っていて、誰彼となく騙し、思い通りにならないと、小暴力も振るう。サイコパスの縮小版か?
 確かに自分より幸せそうに見える人を、憎む心は理解できる。誰にでもある心理だ。けれど、だからと出鱈目を言ってまで兄の結婚式をぶち壊したり、主人公の家庭にまで、押し入って恐怖に陥れる行動は、常人にはデキナイ。いずみほどではなくとも、よく似た小つぷの悪人はごく身近にいて、私達に毒を垂れ流しているかもしれない。、

 「怒り」による無差別殺人と、国の怠慢による土壌汚染のほったらかし。そしてシックハウス症候群と・・・。社会問題も含み、よくまとめられ、語られている。

 一線を越えて「人殺し」をしてしまう人の、心象風景を予想しながら書くことは難しい。作者には「人殺し」の体験がない。また、それほどの貧困も困窮も、行き場のない怒りも・・・・。すべて妄想から創作しなければならないのだから。少し真犯人像の心理には、リアルさが感じられない。

 「誰でもいいから殺したい」と思う衝動は、人間が獣だった頃、原始時代には無かっただろう。

 誰でもの「誰」に選ばれた人は『誰か』である。一家の大黒柱かもしれない、働き者の母ちゃんかも知れないし、父母、祖父母にとり最愛の娘、息子かもしれない。

 自分の鬱積を他者を傷付けることで晴らしたい。これは、よく理解できるが・・・。やはり、『誰でも』は『誰か』である。

 人殺しは、してはいけない。

 「人殺し」を踏みとどまらせるハードルが、今日の日本の社会では、あまりに低くなってしまった。

 絶望の中に居る外立くんを、支える近所の社長のことを描いているが、これは宮部 みゆき氏の優しさ。読者は安心する。