あのとき

九月のある日いきなり夫の友人から「胃がん発見。悪性」、というメッセージが夫の携帯に届いた。そして○日から検査入院すると。いてもたってもいられない。夫から聞く、青春時代の彼の思い出話によって私も彼のことが大好きになっていたので。

入院中の彼のことも勿論、奥さんがどんな様子か知りたくて、できれば力になりたいと思い、奥さんと話したくて、思い切って自宅へ電話すると、彼が出るのだった。入院の予定が変わったとのこと。けれど、奥さんに話したかったのだ、私は。彼は「カミさんは電話に出られる状態ではない、そっとしておいてほしい。」と何故か怒るのだった。心ならずも彼の心を傷つけてしまった。ごめんねごめんね。私は、詫びたつもりだが、彼には伝わらなかっただろう。

「こちらから連絡するから」つまり、もう電話しないでほしいという彼の言葉に圧倒された。

でも、女は強い。あなたの奥さんは今はどんなに辛く悲しくても、きっと忍耐できる。そしてあなたの負担になることは望まないはず。平静を取り戻す。また、治ることを信じて一心にあなたを看護してくれる。私は絶対それを信じているし、遠くにいて何もできないけれど「心」でいつも応援し続ける。と伝えたかった。また、あなたのカミさんはあなたが思うほどやわじゃない。

もうひとつ、最悪の事態になったとき、カミさんにはあなたの友もついていると、あのとき伝えたかった。

そう、伝えぬうちに逝ってしまうなんて。

友よ、自分の死んだことは、どうしても自分では伝えられぬ。

病床でしっかり弱味を見せて、カミさんにきちんと甘えてからあなたは逝ったのだろうか。

病に倒れる三年前から、どうしてもどうしてもこの試験に受かりたいと、彼は仕事をしながら睡眠時間も惜しんで、不休で勉強を続けていた。私も勉強のし過ぎで体を壊したので「もっとのんびり」「無理をせずに」とメールを送っていたのだが・・・・



今年二月に亡くなった父、七月に61才で亡くなった訓練校時代の恩師T先生よ。N君に其方で会えたら伝えて。 今度こそ、のんびりゆっくり休んで。そしてカミさんが力強く生きていけるよう見守って、と。