ちょス飯の読書日記

 『あやとりの記』  ★★★★★
 

あやとりの記 (1983年) (福音館日曜日文庫)

あやとりの記 (1983年) (福音館日曜日文庫)

作者の幼い頃の思い出を児童向けに書いた作品。
登場人物は、他の作品にもよく出てくるおもかさま、主人公みっちんの盲目で気狂いの祖母、犬の仔せっちゃん(仔犬を懐に入れてされく女勧進)、112歳で亡くなったおばあさん、ぽんぽんしゃら殿、父親、母親など。
 片足で萩麿という名の馬を飼っている仙蔵やんは、煮しめ色の褌を手ぬぐい代わりにも使う。片目の大男心優しきヒロム兄やん、隠坊の岩殿は常に機嫌がよく物知りで哲学者のようだ。
 みっちんは、3歳から5歳くらいだろうか。
 他人の、それもひとからさげすまれている大人ばかりの話を聴いている。そして、一緒に萩麿の病気回復を龍神様にお祈りに行ったりする。人はどうにもならないとき、神様に助けを求める。そして、そこに住む人々は誰もが皆、その神を心底信じている。

 当時の母親は、こどもがどこで誰と付き合っているか知らなくても安心できたのだろうか。いや、当時(昭和の初め)であったとしても、たいていの親はあんな人達と口を利いてはいけない、会いに言ってはいけないと行っただろう。

 みっちんはこどもの頃から、気狂いの人不具の人、親無しで乞食をしている人々の神性をm見抜いていたのだろう。山や川の精霊たち、小さき生き物たちの声が聞こえるこどもだったのだ。

 犬の仔せっちゃんが、こどもたちにいじめられる場面では、みっちんは小さな体でせっちゃんと仔犬を助けた。こどもに棒で撲られたせっちゃんが、「ああ痛ぁ、ああ痛ぁ、かかさん、かかさん」と泣いた場面は本当に胸が痛んだ。せっちゃんには、父母がいない。ずっと乞食をして生きてきたのだ。村人は、せっちゃんの懐にいる仔犬たちの分とせっちゃんにとからいも(さつまいも)のふかしたものなどを与えてきた。せっちゃんが、ただひとりでお産をしていつの間にか、懐に赤子を抱いている場面があったが、・・・、その後川に流れていた赤子が、隠坊のところに箱に入れられてやってくる。遺族はひとりもいなかった。もしかしたら、せっちゃんの赤子だったのか。そこは語られていない。
 ヒロム兄やんの物語も悲しいが、小さいこどもでも、人の悲しみに寄り添うみっちんは、彼らを加勢できたことだろう。