ちょス飯の読書日記

 『森は知っている』

森は知っている

森は知っている

  ★★★★☆

 日本にも秘密諜報員はいるだろう。しかし、その人はどういう経緯で、そのシゴトを選び、命の危険を顧みず職務を遂行しているのだろうか。

 作者吉田修一は、幼い子供が新しい恋人のできた母親に小さな部屋に置き去りにされ、餓死寸前の状態で発見された痛ましい事件の被害者を、戸籍のないものとして虐待してきた実父に渡さずスパイとして訓練させるという、奇天烈な物語をひらめいて描いたのだろう。
 私も、この事件にはものすごい衝撃を受けた。
 母親がこどもを置き去りにして餓死させようとするなんて、鬼より恐ろしい所業だ。恐ろしくてこども達が哀れでならなかった。何故早く救出できなかったのか。怒りもこみ上げてきたものだったが、その後も同様の事件が起きている。
 

 主人公鷹野は、2歳の弟と抱き合っていたところを発見され、そのあまりに過酷な状況を生きるために乖離性障がいを発症。昨日の自分と今日の自分が違う。・・・とあるが、あまりその描写はなかった。ので、マイナス1。

 スパイになるための訓練は、詳しく書かれていないが舞台となっている沖縄の離れ小島が美しい。
 
 最後のどんでん返しは、面白かった。ハードボイルド。

 『太陽は動かない』  ★★★★☆

太陽は動かない

太陽は動かない

 先に、『森は知っている』を読んだが、発表はこちらが先だった。しかし、物語の時間はこちらが後。

 太陽光発電事業にまつわる、日中の情報戦。AN通信という
日本の産業スパイ組織が正義のためや自国の利益のためではなく、儲かる方にその情報を売るという。
 実際にそういう世界もあるかもしれない。
 しかし、ウイグル族の独立を目指す武闘派グループが、日韓のサッカー試合会場に爆弾を仕掛けるというところで、なんと中国側の一企業がそれを利用しようとしているという。

 暴力シーンは読んでいてい辛かったが、映画のワンシーンのように、必ず誰かが危機一髪のところで助けに来ると信じていた。

 日活のアクション映画のようだった。

 ただ、AN通信社のメンバーは、全員胸に爆弾を仕込まれていて、毎日正午に連絡しなければ裏切ったとみなされて、爆弾が破裂するなんて、いかんでしょう。故にマイナス1。
 裏切りが前提の仕事だからか、しかし彼らを使う方は信用しないと司令が出せないはずだ。

 これは、いつか映画化されると思う。

 もう少しゆとりの場面もほしかった。
 それにしても謎の男、デイビッド・キムはいいやつだった。五十嵐という政治家が、鷹野の過去を知り涙を流す場面。これは、作者の気持ちだろう。