ちょス飯の読書日記
『猿の見る夢』 ★★★☆☆
- 作者: 桐野夏生
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/08/09
- メディア: 単行本
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雑誌『週刊現代』に連載されていた作品だからか、読み手に忖度したというかフィットしている。
主人公 薄井は59歳の中堅アパレルメーカーの重役だが、今の会長のお気に入りなので、会長引退後に地位を奪われないかときゅうきゅうしている小心で、こすっからいがかっこいい男性だ。
もしかしたら、こういう社員は、読者の憧れなのかもしれない。
しかし、彼には10年も妻にばれていない愛人がいる。
社長のセクハラがネットに書き込まれて、その処理を薄井が頼まれて・・・。
謎の予知夢を見るおばさんが、おかしかった。おばさんの勧め沢庵山盛り、まぐろとたこの山盛りをつまみに、日本酒をロックでガバガバ飲む場面。うまそうだった。
高齢の認知症の母親の看護を妹夫婦に任せて、亡くなると「遺産よこせ」と法律をかたに迫る薄井。リアルでおかしかった。
桐野夏生が書いたというより、奥田 英朗の世界ではないか、これは。桐野先生には、毒のある作品を期待したい。
故に★3つ
『世界地図の下書き』 ★★☆☆☆
- 作者: 朝井リョウ
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2013/07/05
- メディア: 単行本
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児童養護施設の実態は、よく下調べして書かれたのだろうと思うが、こんなに良いものだろうか。
養護施設にいるということで、こどもたちはいじめられていないか、日頃から気になっていたがその描写はなかった。
両親を突然亡くし、引き取られた伯母宅で虐待されて施設にやってきた主人公太輔。彼が、だんだん同じ部屋に住む子らと仲良くなり、年上の佐緒里に恋をする。
さまざまな悲しみや苦しみを、こんなに小さい子たちが抱えて生きて行く。しかし、どの子も負けない。
作者の温かい眼差しを感じた。自殺してはならない、嫌なことからは逃げろ、と伝えたかったのだと思う。
やや、きれいごとに過ぎると思うので、★2つ。
『橋を渡る』 ★★★★☆
- 作者: 吉田修一
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/03/19
- メディア: 単行本
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春夏秋冬の4章からなる。2015年当時の出来事、ニュースが
重要なキーワードになっている。一章一章がほんの少し重なっている。
しかし、最終章には魂消た。70年後2085年の世界が展開しているからだ。
人類は、サインと呼ばれる人造人間と暮らしている。
いろいろな小説や映画に人間型の奴隷生命体が描かれてきたが、・・・。
人間は我慢することをやめる。腹いせはサインにする。
通底するテーマは「不正」そして、マララさんの言葉だ。
メビウスの輪のように、始まりと終わりがつながって元に戻る。不思議な超現実世界。しかし、ほっとできる終わり方だった。
どうして、未来になっても人間の形をした奴隷を人は欲するのだろうか。差別したりいたぶったりする存在を、人間は本能として欲するのだろうか。
不正を許さない態度は、立派なことだ。が、一般大衆は有耶無耶にしたり、忘れ去って行く。そして新たなスキャンダルを捜している。
とてもわかりにくい書き方で、心して読み返しながら読まねばならないので、マイナス1。
伏線が回収されたことには、すっとした。
もうひとつの現実が、4章から1章へ70年遡って始まるのかもしれない。