ちょス飯の読書日記

 『くちぬい』    ★★☆☆☆

くちぬい

くちぬい

 東日本大震災福島第一原発事故後に東京から高知の山奥の限界集落「白縫」へ転居してきた、壮年夫婦が村人にいじめられる顛末。

 放射能汚染から逃れ、初めは村の自然にを満喫し、夫と第二の人生を生きようとしていた妻が、村人の執拗な嫌がらせにだんだん追い込まれてゆく。

 原発事故による被害のひとつの物語というより、老人だけの村では、国家も警察も機能しない。「妬み」「嫉妬」という小さな小さな理由で人殺しも起きるが、村人が全員で隠蔽し、誰も証言しない。「口をつぐむ」、つまり、口を縫ったように閉じて生きている。そうしなければ、生きていけないのだ。

 恐ろしい物語だったが、真砂子様の小説にしては、毒が少ない。

 彼女の晩年の作。体調が、既に悪かった頃に書かれたからだろうか。